手回





結論から言って、笹木と名乗った新任の祓魔師は恐ろしく優秀だった。
授業でのそつのないサポート(身内故か主に燐のみに若干風当たりを悪くしている雪男と違って、燐に対しても懇切丁寧オマケに優しいので燐からも大絶賛だ)に加えて、先日の暴れている小鬼を退治するという実習訓練において戦闘能力の高さも証明された。
銃剣を巧みに操り生徒が逃がした小鬼を一匹たりとも逃さず退治していく。
燐によると雪男が自分の出番がなく、華麗に銃を撃つことが出来ず実に悔しそうだったとケラケラ笑って言っていた。
ちなみにその直後雪男に思い切り足を踏まれて痛そうにしていたが。

「アタシはアイツ苦手っつーか嫌い、同じマジメ眼鏡でも雪男と違って弄りにくいし」
「……そういう尺度で人を判断するのもどうかと思うけど」

大福を口に運びながら言う霧隠シュラに、同じく用意された緑茶を飲みつつ冷静に突っ込んだ。
ここは正十字学園敷地内、理事長室がある建物のある一室。
理緒の雇い主は理事長であるメフィスト・フェレス預りになっているが、給与などはなく生活に関する諸々は全てメフィストが整えているがその仕事内容から当然お釣りが出るくらいなのである程度我が儘が利くようになっている。
だからといって特に欲しい物はないので、考えた末(シュラに唆されたとも言う)茶飲み友達であるシュラと雑談するときに上質な菓子を用意させているのだ。
今回机の上に並んでいるのも京都の老舗和菓子屋から取り寄せたものらしい。

「からかいがいがにゃいんだよなー」

シュラとて誰にでも雪男のような対応をしているわけではない。
日本支部の教師には勿論普通だ、寧ろ中々にユニークな教師もいるらしくそれなりな関係を築けているようだ。
逆に理緒はといえば、吸血鬼だというだけで少し畏縮されているような気がして居心地が良いとは言えなかった。
人間は往々にして排他的であり、人間以外の人間より高度な生物に対してはそれが顕著だと言える。
だが雪男やシュラはそれを感じさせない、まるで友人のように接してくれる。
しかし戦いにおいてはしっかり人外だとわかって動かしてくれるからやりやすいことこの上ない。

「いいんじゃないの?優秀な人材がいるに越したことはないんだし」
「どーもアイツ腹になんか抱えてるようにしか見えにゃいんだよなあ」

後にシュラのこの勘が的中することになる。





「あ、そーだそーだ。メフィストの奴から伝言、今度のアイツ等の実戦任務ついてこい」
「は?」

突然の言葉に何を言い出すのだとシュラを見た、いや正確にはメフィストか。
話によるとそれは数日後とある山奥の村の墓地に出向き最近大量発生しているグールを駆除していくというものだ。
土葬する宗派の墓地だったため殆どが人型のグールで、最近近隣の村に住んでいる村人を夜な夜な襲っているらしく祟りだと恐れられているらしい。

「移動は鍵で行くから特に問題はないだろ、それに塾でもうお前の正体バレてっから」
「え、ちょっと何それ聞いてないんですけど」
「文句なら燐に言えって、あいつがうっかり口を滑らせたんだから」
「あんの馬鹿……!」
「ハハハ」

理緒が持っていた湯呑みにピキッと小さくひびが入り、シュラは乾いた笑いを零した。
実際には自分と他の教員が吸血鬼について会話しているのも神木に聞かれたのだがこの調子では言わない方が良いだろう。
少しして落ち着いたのか溜息をつくと話を続ける。

「まあ、その件はこの際いいとして……どうして私がついていかないといけないの。グールの退治くらい半人前の祓魔師といえどそんな難しい任務じゃないでしょう」
「グールの戦闘能力から言えばそうなんだけどさ、経験のない奴らに人の形をしたものの相手はきついだろ?」
「あー、成る程」

大抵の悪魔は上級クラスの人間に憑依しているようなのとは違い、一口に言えば化け物と表現するのが正しい見た目をしている。
そのため特にまだ経験の浅い祓魔師にしても”悪を倒している”という実感を得られる。
だがもしその悪魔が人の形をしていたら、攻撃の前に一瞬躊躇いを見せてしまうのが人の仕方ない道理であり、人としてあるべき姿ともいえる。
しかし戦場においてそれは確実に命取りだ。

「だから、ヤバくなったらよろしく」
「……いいけど、引率の教師としてそれはどうなの。雪男君も、それこそ笹木もいるんだから危なくなる前にどうにかなるでしょ」
「いーや雪男と笹木にも先にこの件は言ってあるから、こっちが手出す事態になる前によろしくー」
「ちゃんと仕事しろ」

一体何を企んでいるんだか。
いつかの燐が悪魔、それも魔神の子だということを周りに知らしめたという林間学校を彷彿させる。
自分は実際その時のことは知らないが、シュラとメフィストの利害が一致した場合碌な事が起こりそうにないだろう。


「ところで理緒お前、燐のこと好きか?」
「……また唐突な」
「この前夜這いまで仕掛けたんだろー、実はかなり気に入っちゃってったりしちゃって〜」
「悪魔は食事対象。それ以上でもそれ以下でもないから」

ニヤニヤとこっちを見ているシュラに苛立つ。
バッサリ言い捨ててやれば「そっか」と意外と簡単に引いたので少し拍子抜けだ。

「だったら、必要以上に燐の奴に関わるのはやめんだな。初心なガキに期待させるほど罪作りでもにゃいっしょ?仮にアイツが惚れちゃったら、面倒だろ」

それは一見ふざけたような口調だったが、瞳は確かに真剣だった。

―――古き高貴な血を引く鬼は、望まざるとも他を魅了する。







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