012
「…っは、…くそ、」
大分歯こぼれの目立つ誰の物かわからない刀を投げ捨て、『たった今斬り殺した天人』の屍の上にどっかりと腰を下ろした。
体力はほぼ尽きた。
「…今襲われたらヤバイかも」
ふぅ、と漏らした息は、寒空に白く残ってそして消えた。
「………」
そして。
「……っ…何だよお前かよ…綾瀬」
咄嗟に拾い上げた血塗れの、誰のかわからない刀は、不意に現れた殺気をギンっという寒気のする金属音を鳴らして受け止めた。
トリップ
「…丸一日帰って来ないから銀さん心配したぜ?」
どーした、ダイジョブか?と言いながらあたしの頭を撫でる大きな手。
その手は血だか泥だかにまみれて汚い、が、あたしの頭どころか全身は恐らく三日は清めていない上に銀時と同じく血だか泥だか、汗だかにまみれて銀時以上に汚い。
「…銀時」
「あン?」
「ごめん、道に迷った」
「…………は?」
先に偵察に行っていた仲間と、交代する手筈だったのだが。
いかんせん人の顔と名前を覚えるのが苦手、というか興味が無くて。
未だ覚えていなかった仲間と交代も出来ず(だって誰が仲間かわからないし)、挙句天人に見つかり人数が多く逃げながら戦ううちに、帰り道がわからなくなって勘でまっすぐ歩いていたらまた違う天人に見つかって、と現在に至った。
「そりゃァ帰れねー訳だなァ」
呆れたように呟く銀時を見上げて首を傾げると、「真逆」と端的に告げられた。
帰ったらヅラ殺す、なんとなくむしゃくしゃするから。
そう思ってたら、見慣れた寺について一気に安堵と疲労に包まれる。
「おーいただいまー、高杉綾瀬見付かったぞ」
「よォ綾瀬、風呂沸いてるぜェ?背中流してやろうか」
「沸いてんのはテメェだ、また蹴られ………」
「綾瀬?」
ねぇ待って?
何ですかこれ。
あたし、コイツ知ってる。
こっちの銀髪はもっと死んだような目をしてて。
こっちは…眼帯の全身男性器?
なんで、
あたし、
「…『銀時』…『晋助』…?」
「…なんだ、どーした」
教室で昼寝してなかった?
なんであたし、血塗れで
「………あたし、」
混在する記憶。
経験は無いけれど、電話の混線みたいな。
女子高生の瀧川綾瀬、
だけど今は、きちんと『今までの記憶』もある。
あたしは、
瀧川綾瀬。
現在、坂田銀時・桂小太郎・坂本辰馬、そして高杉晋助達と共に参加する。
攘夷戦争、真っ只中。
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