「なあ、ワシオーラ見えんねん」
自習のプリントと睨めっこしてると、上からオーラとかスピリチュアルな単語が落ちてきた。そんな非科学的なことをこの男が信じてるのか、訝しげな表情で前の席に座る胡散臭い表情を浮かべた男に視線を向ける。男、今吉はあたしと目が合うと「信じてへんやろ」と楽しそうに言った。
「いや、一番宗教とか信じてなさそうだし」
「そんなことあれへんよ」
貼りつけたような表情に嫌悪感が募る。今吉は、自分の内側を隠すのが上手い。そして、同時に他人の感情を読むことに長けている。普通に会話している今も、今吉はあたしの些細な表情の動きでなにを考えてるのかわかってしまうのだろう。
「そんな、ワシと話すん嫌がらんといてや」
困ったように、眉が寄せられる。
「あれやねん、ワシ心読めるとか言われるやん。ちゃうねん、ただ感情によって変わるオーラでわかってまうだけやねん」
「は?じゃあ、今吉は心読めるとかじゃなくて、オーラの違いで感情が読めてたってこと?」
「そう言うことやな」
「じゃあ、あたしが嫌そうってわかったのはオーラのせい?」
「せやな、嫌悪感丸出しの黒いやつでとった」
開いた口が塞がらないとはまさにこのことである。この男は本気でオーラが見えてるというんだろうか。「じゃあ、試してみる?」好奇心のあまり頷いたあたしに、今吉の表情はどことなく楽しそうだ。
すると、シャーペンを握っていた手に今吉の、綺麗なごつごつした指が伸びてくる。あたしの指を遊ぶように絡められていく指に、心臓が鳴る。「なにしてんの?」あたしは今吉を睨みつける。
「ドキドキしとるやろ」
「はあ?」
指摘されると、段々恥ずかしくなるもので、顔に熱が集まる。「ワシのこと好きになりそう?」胡散臭い笑みを貼りつけた今吉がいあたしの鼓膜を揺する。
「バッカじゃないの!」
絡められていた手を左手で抓る。「いったあ!」情けない声を上げた今吉に、ざまあみろと舌を出す。
これ以上相手にするとか馬鹿らしいので、自習プリントに視線を戻したのはいいけど、バクバク心臓がうるさい。頭の上で、今吉が笑ったのがわかる。どうせ彼には筒抜けなんだろうな。