私の彼氏様はよく分からない。

ある時は、


「ねえ、郁さん」
「ん?なーに?」


・・・・気持ち悪いぐらいに機嫌が良い



またある時は、


「ねえ、郁さん」
「・・・・・何?」


こりゃ話を続けるのは不可能だ。



とにかく、心が読めないというかなんというか、本当によく分からないのであります。

母校の理事長兼保険医である星月先生は、
あいつはそういうやつだからほっとけ。
などと言うけど、
好きな人を知り尽くしたいというのが乙女心というものでありまして、

だから、私は郁さん観察ノートを作っ―――


「名前、1人で難しい顔してどうしたの?」
「へ、い、郁さん!?い、いいいいつのまに!?!?」
「いつの間にって…もう待ち合わせの時間でしょ?」
「あ」


自分の腕時計を見てみると、確かに待ち合わせの時間であった


「それに、すっごく恐い顔してカフェテラスに座ってるんだもん。たとえ待ち合わせじゃなくても話しかけないわけにはいかないでしょ?…って、これは?」


彼の指さした先には“郁さん観察ノート”が
あ、やば、手に取られ――――っ!!


「“観察日記”?名前、植物かなにか育て始めたの?」
「え、いや、あの…と、りあえず返し」



パラリ。



ノートが数ページめくられた。


「・・・・・」
「・・・・・」


そんなにやばい内容ではないはずなんだけど、沈黙が、痛い。


「…郁さん、は、早くか」
「ふうーん、名前は僕のこと結構見てくれてたんだ」


そう言う郁さんは笑顔で。
でもその笑顔は初めて見る笑顔で。


「今日のデートは予定を変更して僕の部屋でたっぷり可愛がってあげることにするよ」


そう、いわゆるSっ気たっぷりの笑顔だった








君のベンゼン環
(安定か不安定か、よく分からない。)





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