それは劇薬と言ってもいいんじゃないだろうか?
他の人には効かないかもしれない、私専用の劇薬。
今回は致死量を超えてしまったようだ。

劇薬、致死量オーバー




先輩?どうかされました?、
なんて可愛く首を傾げるのは二つ下の川西左近。
私は口煩い性格をやめたくていつもなりすましている。
それが無口でクール、ミステリアスな先輩だ。
そんな無口クールキャラを保つために、少し溜めてから返事を返す。

今日は左近と二人で保健室当番だ。
私はくのたまであるが家が薬師の家系で当主を引き継ぐことになっている。
だから修行のために新野先生に教わっていたところ、
自然に保険委員と仲良くなり今に至るというわけなのだが・・・。

私は不覚にも恋をしてしまった。
そりゃあ忍びの学園で色なんか御法度なんだろうが、
好きになったものは諦めきれない。
遠くにあるほど手に入れようと燃えてしまう性格の私だ。

それが、川西左近という男だった。



「先輩、あ、ありがとうございました!」

恋のキッカケの言葉だった。
穴に落ちた左近を助けたところお礼を言われた。
それだけのはずなのだが、
私は左近の性格を知っていたからふいに自意識過剰な思想を生み出した。


-左近は、上級生にもくのたまにも謝らないのに私"だけ"に謝ってくれた-


人の大半は特別だとか一番だとかいう言葉に表面は嬉しそうにしていなくても、
心の片隅で、自分の気づかないところで喜んでいるのだと、
図書室にある古き書物に載っていた記憶がある。

かくいう私もそうなのだろう。
まぁ、私は顔には出さなくとも心では大喜びだ。
恋愛感情など、なかったはずなのに。
安っぽい恋愛感情を生み出したのだ。適当な思想で。

それからは簡単に深みにはまっていった。
一つの仕草を見て好きになって。笑った顔が一番好きだ。
それを繰り返し始めたら一瞬だ。
抜け出せない。客観的に見え始めたのもループしすぎたからだろう。

そんなループもすぐに終わってしまった。
私の体は誰かに操られているかのごとく、左近のほうに向き、話し始めるのだ。

「左近・・・好きです。付き合ってください」




どうなったのかなんてわからない。
いきなりブラックアウトしたかと思ったら、視点が戻った。自分の体に。
周りを見渡した時には、保健室を立ち去る左近がみえた。

頭が冷めていく。記憶は呼び起こされ、ただ理解した。
私は左近にフラれたのだと。
しかし恋愛感情はとうに消え失せていたので、特に思うことはない。
思うとすれば、明日から保健室に行くのが気まずいなぁ。というだけだった。



左近は案外、近くにいた。
保健室の前の蛸壺に落ちていた。
泣いている。なぜ泣いているのかなんてわからない。
世の中わからないものばかりだと思う。

だから、こうやって左近を抱きしめている私のこともわからないのだ。


「せ、先輩?どうしてここに!」

「ねぇ、左近。私のことを嫌いでいい。
だから、だから泣かないで。笑顔を、笑顔を頂戴」

嫌だと思った。左近が泣いているのが。
綺麗な雫が頬をつたい地面に落ちるのが嫌だと思った。笑う顔が見たかった。

「先輩、あの、その、さっきは、すみませんでした・・・。
ぼ、僕!先輩のこと大好きです!僕でよければ恋仲になってください!」

左近のいきなりの発言に驚いているとキスをかまされた。
そして、冒頭に戻る。

劇薬、致死量オーバー





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