本を返しに行った時、少しだけ指先が触れた。あわてて図書室を出たけれど硬く冷たい指先がまだわたしの指に触れているようで胸が痛いと思った。ちくりと針が刺さるような小さな小さな痛み。それからちょびっと苦しくなった。どくんどくん。心臓が速くなる。ぎゅっと締めつけられるような、そんな感じ。その次は呼吸が上手くできなくなった。あれ、わたしっていつもどんな風に息をしていたっけ?吸って、吐いて、の繰り返しなのに。おかしいな。いつもはできるのに。こんなに息するの、下手だったっけ?まるでわたしじゃなくなったみたい。

あぁ、中在家はいつか言ったていたね。南蛮の話をした時、珍しい薬の話をしてくれたのを覚えてる。ずっと姿を残しておける、魔法みたいな薬があるって。"ホルマリン"と言うんだっけ。医務室に行けば、あるだろうか。いやきっとまだないだろう、でも。 

わたしの心を取り出して、魔法の薬が満ちた瓶にそれを浮かべて、中在家に渡したら中在家はどんな顔をするかな。
そう考え始めたら、また胸が痛くなった。 



 
恋心のホルマリン漬け 
 


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