▼64:デュオとベッリーナF
予想外に現れたソルベとジェラートにスクアーロは正直焦っていた。負傷してる身体でナランチャとこの二人を相手にするのは分が悪い。ジョルノのトドメを刺すにしても既にクラッシュはナランチャの喉元に出していて、それを引っ込める訳にはいかない。
「3対1だ。どうする?」
「もうお前を励ましてくれる優しいティッツァーノはいないぜ?」
ソルベとジェラートがそう言ってスクアーロに近付こうとするのをナランチャは止めた。
「ま、待て!血に……水に近寄るのはマズイぞ!」
「あぁ……そうだったな」
「なるほど。オレたちが近寄っていってスクアーロを殺るにはその返り血を浴びる恐れもあるね」
「最初はどうなるかと思ったが……中々冷静だな、ナランチャ」
「なら、この距離からでもトドメを刺せるキミに任せようかな」
ジェラートがナランチャのエアロスミスを指差して言った。ナランチャはギラッとした目付きでスクアーロを睨むと、エアロスミスを飛ばす。
機体をスクアーロの身体に体当たりさせ、そのまま上昇させた。スクアーロの足が地面から浮く。
「オレたちはよォ……このヴェネツィアを何事もなくみんなで脱出するぜ。それじゃあな……」
ナランチャが繰り出すラッシュと合わせてエアロスミスは機銃を連射しスクアーロの身体を蜂の巣にした。
ナランチャの喉元に噛み付いていたクラッシュからも本体であるスクアーロと連動してブシュブシュと音を立てて血を流す。
「Volare via.」
エアロスミスがスクアーロの身体を撃ち飛ばし、ナランチャの喉からクラッシュも抜け落ちた。
「裏切り者のくせに……。ボスに始末される運命の……未来に絶望しかない者のくせに……なんなのだ?こいつらを突き動かす……まるで希望があるかのような精神力は、い……一体?」
「お前は既に答えを見つけていた筈だ」
「それに気付くのが遅かっただけの話だよ」
ソルベは銃を抜いて瀕死のスクアーロを撃ち、ソルベの手から銃を取ったジェラートも一発撃つ。
もうスクアーロの息は絶えていた。広場に集まっていた人々が銃声と血と死体に気付いて悲鳴と共に逃げていく。
「オイッ!ソイツ、もう死んでるぞ!」
「……だからァ?」
「代償を払ってもらうのは当然だ」
敵だったとしても死んでしまった人間に向かって発砲し死体を傷つけるのは尊厳を貶める行為だ。ナランチャが止めても二人は構わずに銃弾がなくなるまでスクアーロの死体を撃ち続けた。
「代償……?」
「オレたちの大事な大事なオンブラを傷つけた償いだよ」
「そんな事よりも早くジョルノの呼吸を確認した方が良いんじゃあないか?」
「ジョルノ!!」
ソルベが井戸の傍に横たわるジョルノを指差して言う。ナランチャは僅かに震えながらレーダーを出してジョルノの呼吸を確認する。小さくはあるがレーダーが反応したのを見て、ナランチャはホッとした。
「や、やった!微かに息を吹き返してる。やつら……ジョルノの息の根を完全に止める……暇は……なかったようだな……。ギリギリだったが……危なかった……ぜ」
ナランチャはジョルノの身体を抱き起こしながら、戦いを振り返ってみて、知らず知らずのうちにジョルノに導かれていると思った。
アバッキオはジョルノの事を軽んじて認めないと言っているが、今のナランチャにはそうは思えなかった。ジョルノがいればこの旅は希望さえあるかもしれないとさえ思い始めていた。
ひとまずみんなのところへ戻ろうとナランチャが顔を上げると、レストランの方角からブチャラティたちがやって来る。
「ブチャラティ……」
「ナランチャ!ジョルノ!」
負傷しているナランチャたちの姿にブチャラティが駆け寄った。その後ろからアバッキオ、ミスタ、アデレードと続き、アデレードはソルベとジェラートに気付いて一瞬たじろいだ。
「おい、ナランチャ!お前、その傷どうした?」
「ジョルノは!ジョルノは呼吸してるんだろうな!?治せるんだろ?」
「あ……ああ……!ジョルノは無事だぜ……!」
アバッキオとミスタがナランチャとジョルノの怪我の心配をする。
「攻撃が始まってからの時間は約5分ってところか。……とにかく今組織の追っ手がこの二人の他にこのヴェネツィアに到着してるとは思えない。ガラ空きになったはずだよ」
「このヴェネツィアを脱出するのなら、今がチャンスだ」
ジェラートとソルベがアデレードに言うと、アデレードはちらりとスクアーロの死体を見た。彼の死体にある種類の違う無数の銃創にアデレードは眉をひそめるがソルベもジェラートも表情ひとつ崩さない。
「後はオレたちに任せろ」
「そっ!プロに任せてオンブラは早いところサルディニアに向かった方がいいよ」
「どうして行き先を……。レディオヘッドで"盗み聞き"したわね?」
「お陰で助かっただろ?オンブラが傷つけられた仕返しはオレたちがしっかりしておいた」
「礼なら後で返してくれればいい」
ソルベとジェラートはそう言ってアデレードの頬にバーチをして、スクアーロとティッツァーノの死体を引き摺っていった。
「……アイツらも暗殺者チームのメンバーか?」
「Si.その中でも特に関わりたくない二人よ」
「先を急ごう。空港に向かい、飛行機をゲットする」
ブチャラティの言うとおり、陸路を行く余裕はないしサルディーニャに行くにはティレニア海を渡らなければならない。
「そうね。サルディニアでボスの過去を一刻も早く見つけなければ私たちの負けね」
アデレードたちはボートに乗り込み、ヴェネツィアを後にした。
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