▼ロマンスとベッリーナ
猫のようにするりとベッドから抜け出すアデレードの白い背中に伸ばした手は呆気なく空を切った。
余韻に浸ることなく身支度を整えるアデレードの口紅は既に美しく塗り直されている。
「もう行くのかよ」
「Si.余韻に浸っていると余計な期待をするものだわ」
「期待したらいけねぇのか?俺の方が良いって解っただろう?」
「誰と比べて?」
「誰と比べたんだよ?」
「誰も」
「じゃあこれから比べることになるぜ」
「プロシュート。あなた、私といない時私のことを思い出したりする?」
「そりゃするだろ。愛してるんだからよ」
「やめて。あなたは昨日の私を思い出さないし、明日の私のことは何も知らない」
「随分冷てぇんだな」
「期待することってとってもロマンチックよ。私たちにはロマンスは要らないでしょう」
待つならおひとりで。女を待つのは男の楽しみでしょう?
期待すらさせないのにアデレードはウインクを飛ばして部屋を出ていく。
期待することはロマンチックだが、期待しないということはなんとドラマチックなのだろうと紫煙を燻らせながら窓からアデレードの後ろ姿を眺めるのだった。
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