▼27:葬式とベッリーナA
ポルポの棺を葬送すると、参列者は続々と教会を後にする。
既に死んでしまったギャングの幹部に哀悼の意を表さない軽口がそこかしこから聞こえた。
「墓場じゃあなく火葬場へ向かうんだと」
「土葬したってポルポには復活の日なんて来ねぇさ」
「火葬にしてもよォ、そもそもあの身体は焼却炉に入るのかよ?」
「燃やすのにも時間もかかるだろうな」
「あんだけデブでも燃えれば骨と灰になるだけか」
「あの男にはお似合いだ」
「違ぇねぇ」
ゲラゲラと下卑た笑い声が遠ざかると、樹の傍に佇みながら毛先を弄んでいたアデレードは髪の毛から指を離して話を切り出す。
「……それで?」
「お互い時間もないだろうから結論だけ言うが、俺たちも彼女に死なれては困るんだ。彼女が死んだら真っ先に疑われるのは俺たちだからな」
「誰かが俺たちを嵌めようとしてる」
「誰か、とは」
「解るだろ?」
プロシュートの言葉にブチャラティが尋ねると、彼はフンと鼻を鳴らした。
アデレードは更に言葉を返そうとしたブチャラティの胸に手を当てて止め、プロシュートに向き合う。
「つまりどうしたいの?」
「俺たちも彼女を護衛する。痛くもない腹を探られて濡れ衣を着せられるのは面白くない」
「アデレードよォ、組織内での俺たちの待遇を知っているだろ?俺たちはこれ以上冷遇されるのはごめんなんだよ」
「Si.話は分かったけれど……ブチャラティ、どうする?」
「アデレード。君はどうしたい?」
「リゾットたちが敵に回らずに済むのならそれに越したことはないわ。でもリーダーはあなたよ、ブチャラティ。あなたが決めたことに着いていく」
「なら、決まりだ」
ブチャラティはあっさりと頷いた。アデレードもプロシュートも少しそのことに驚きながらも黙って彼の表情を見つめていると、リゾットが拍子抜けしたような声を出す。
「……案外あっさりと信用するんだな」
「俺には嘘かどうか見抜く特技があってね」
「それを使ったと言うわけか」
「いや、以前メンバーにやったら嫌がられたんだ。それからやってない」
「それなら何故信じる?」
「おかしなことを聞くな。嘘をついているわけでもないのに。敢えて言えば、君たちのことを信じているアデレードのことを俺は信じている。それだけだ」
ブチャラティの言葉にリゾットが腑に落ちたように何度か頷く。
「あくまでも俺たちは勝手に動く。出来るだけ火の粉は払おう」
「チームのメンバーに俺たちのことを話すかどうかは任せる」
「ああ。よろしく頼む」
リゾットたちはブチャラティと軽く握手を交わすと教会を去っていく。
アデレードとブチャラティも車に乗り込み町へと向かった。
買い物を済ませて素早く隠れ家へ戻らなくてはならない。
「ひとまずアイツらには黙っておこう。折を見て俺から話す」
「Si.……ねぇブチャラティ」
「なんだ?」
「万が一にでもリゾットたちが本当に裏切ってトリッシュを狙った時には私のことを殺して良いわ」
「……笑えない冗談だな。さっきのことか」
「ええ。私はあなたの真っ直ぐな心を裏切りたくないの」
「Stai tranquilla.Andrà tutto bene.」
「そう願うわ」
教会から遠ざかる車の窓からアデレードはゆっくりと上っていく煙をぼんやりと眺めながら、これからのことを不安に感じぜずにはいられなかった。
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