「Ciao!」

天井から掛けられた声に、ポルナレフとソフィアが上を見上げる。

「Salut.」

「Ciao!」

亀の中に入ってきたアデレードに二人が挨拶を返した。

「少しだけお邪魔するわね。上が煩くて」

見上げれば、ブチャラティとプロシュートが言い合いしている姿が見える。互いに胸ぐらを掴みかかりそうな剣幕である。

「……あの二人、またなの?」

「懲りないな」

「そう。困った人たちよね」

アデレードを巡って、顔を見合わせれば喧嘩ばかりするブチャラティとプロシュートにうんざりしたアデレードが亀の中へ避難してくる事はここ最近で日常化しつつあった。
ポルナレフもソフィアも急な訪問者を交えて、そのまま茶会になるのがひそかに楽しみになってきている。
今日もまた、ポルナレフが三人分のティーカップを用意しソフィアが茶葉を選び始めると、アデレードも持ち寄ったクッキーの箱を差し出すのだった。

「今日の紅茶も美味しいわ」

「良かった!取り寄せてたフランス産の茶葉がやっと届いたんだ」

「香りが良いわね」

「アデレードが持ってきたクッキーも美味しいよ」

「気に入ってもらえて嬉しいわ」

ソフィアとアデレードの会話を優しい眼差しで見つめるポルナレフの前にも勿論紅茶とクッキーは用意されている。
が、亀の中で幽霊となってしまった彼にはそれらを口にする事は出来ない。
それでもソフィアは毎回きちんと用意するし、ポルナレフもそれについて何も言わないのだ。そんな二人の関係性がアデレードの目に羨ましく映る。

「あ、空っぽだ」

「ポットにもないのか?」

「うん。ちょっともらって来るね。ついでに外の二人の様子も見てくるよ」

「Grazie.」

暫くして、ポットのお湯が空になっている事に気付いたソフィアが亀の外へ出る。二人っきりになり、先に口を開いたのはポルナレフだった。

「いつもソフィアとお茶をしてくれてありがとう。……私はもう彼女と一緒に飲んだり食べたりする事が出来ない身体だから、きみが来てくれるのが嬉しいよ」

ポルナレフは器用に車椅子を動かしてアデレードの方に体を向けて頭を揺らす。とことん礼儀正しい紳士だと、アデレードは目をぱちりとさせて思う。
ポルナレフがソフィアを気遣って、たまには買い物でも行ってきたらどうだとアデレードと外出する事を促す事も、そのソフィアが外出先でポルナレフへのものばかり買う事も知っている。

「私こそいつも避難させてもらってありがたいし、そんな風に思ってもらえて光栄だわ」

アデレードは似た者同士ね、と心の中で呟くと微笑むのだった。




ベストドロップ

苦味さえも引き立て役として




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