紀田正臣と腐女子
-
…私は目の前の素敵すぎる光景に息を呑んでいた。
まさか臨也さん。竜ヶ峰君だけじゃなく、正臣君ともフラグを立てるなんて!正臣君めっちゃ嫌な顔してるけど。面倒臭さ溢れてるけど。うん、でもまあ臨也さんうざいしなあ。
「おっ…プレゼントか!?」
私はその辺の適当な柱に隠れながら、目を凝らして2人のやり取りを伺う。正臣君が臨也さんに渡したのは…飴、多分そういう類のものだ。
…なんだそれ可愛いな!
「臨正…新境地!」
さらに正臣君。こちらから見ていても分かるようにかなり臨也さんに素っ気ない。でもプレゼントはあげている。ツンデレ…ツンのレベルがひどい。クーデレ…クールでもない。
…死ねデレ?
正臣君、最初多分死ねって言ってたし。
「あ、臨也さんどっか行った」
追い掛けなければ、と臨也さんの向かった方向に自分も歩きだす。必然的に、正臣君の前を通る訳で。
「お、名前じゃん!偶然!いや、必然!?ディスティニーってやつか、これ!」
「や、やあ正臣君!おはこんばんにちは!」
さっき臨也さんに取っていた態度とは天と地のレベルがあるくらい、愛想よく正臣君は声をかけてくれた。
「名前の私服姿を拝めるなんて、まさかのハッピーラッキーイベントだな!今日は1人か?」
「えっと、うん。ちょっと人と待ち合わせ?」
「何で疑問形?」
くすくすと可笑しそうに正臣君が笑った。駄目だ、私かなり挙動不審だ。どんだけなの。
「あ、そうだ。ハニーにこれをやろう」
正臣君は何か良いことでも思い付いたようにジーンズのポケットを探り、私の手に自分の拳をのせた。
「と言いたかったが、残念ながら飴はもう無かったから俺と握手だ!」
「意味わかんない…」
ぎゅ、っと何故か熱い握手を交わして、私達は別れた。
今頃飴は臨也さんの口の中だと思うと、ちょっとだけ羨ましかった。