闇医者と腐女子
-
スカートがひらひらめくれるのも気にせず、私は全力疾走していた。遠くに行ってしまったらしい臨也さんは中々見つからず、私はハンカチを噛みたいもどかしい気分だ。
「くそっ…情報屋の奴、どこ行きやがった?!」
「まだ近くにはいるはずだ!」
カランカラン、とあまり良い印象のない金属の音。さらに情報屋という言葉に、私は思わず声の方向へ足を進めた。
廃工場のような場所のなかでは、2,3人の柄の悪い男達が声を荒げていた。…多分、臨也さんに恨みがある人達なのだろう。ハッ、これはモブ臨フラグ!?縛られて性的に虐められちゃうあれじゃないか?!
「居ねえ…外探すぞ」
密かに興奮しながら廃工場の入口付近でみなぎっていると、男達が入口のほうへ歩いてきていた。え、やばくね?こっち来てるよ?
危機的状況のその時。突如何かが私の服を摘んだ。摘んで、勢いのまま力任せに身体まで引っ張っていく。
「やあ、名前ちゃん」
「ーーっ!」
小さかったけれど、聞き慣れた爽やかな声はまさに私の求めていた人物の声だった。
臨也さんは入口の引き戸の裏。かなり細い隙間でそっと息を潜める。
ドアの後ろをわざわざ確認しなければここは見つからない。というかこんな細い隙間に入れる20代男性すごいな。
「よし、行ったみたいだね」
「助けてくれてありがとうございました。今すぐ離してください近いです恥ずかしくて死にます」
「君の好きなフラグが立つんじゃない?」
「私とじゃ意味ないです!」
2人してぎゅうぎゅうにしきつまっていた隙間から外へ出て、私は初めて臨也さんが怪我していることに気づいた。
「チッ、新羅のとこ行かなきゃ…」
「新臨ですかハアハア。あ、臨也さん大丈夫ですか?肩貸しますよ」
「君の肩を借りたら何か負けた気がするから遠慮しておくよ。それよりタクシー呼んで」
「なんか失礼ですね…。分かりました」
*
場所は変わって新羅さんの家。
臨也さんは手当てをしてもらっている。私?私はどさくさに紛れて侵入して、トイレから2人の会話を盗聴中さ!
にしても臨也さんの誕生日しっかり覚えてるとか、侮りがたし新羅さん。傷口とか舐めればいいのに…くそう、今回は視覚的に楽しめないのが残念だ。でも萌える。
「それじゃあね」
臨也さんが玄関から出ていく音。それに合わせて一緒に出ていこうとしたが。
「ふぎゃっ」
…玄関の小さな段差に躓いて転んだ。
*
「それで、名前ちゃんが此処にいたんだ」
「不法侵入してすいませんでした!!」
「別に大丈夫だけど、普通に入ってくれば良かったのに。…あ、それじゃ意味ないのか」
結局私は一から全て、新羅さんに事情を話してお茶まで頂いてしまった。ついでに手当てもしてもらった。
「でも、何で臨也さんの誕生日覚えてたんですか」
「理由は特に無いよ。一応中学からの長い付き合いだしね。名前ちゃん、息荒いよ。それと僕は君が思ってるのとは違ってセルティ一筋だから」
それはつまり10年近い付き合いということか…!何だそのうまうま情報は!竜ヶ峰君に続いて鼻血が止まらないよ!
「あ、名前ちゃん。臨也のこと追い掛けなくていいの?」
「ああああっ!!
新羅さん、お茶と手当てのお礼は後日改めて!失礼します!」
「またいつでもおいで」
再び帽子を被り、私はマンションを飛び出した。そうしてまた、池袋の街を走る、走る。