臨也さんと帝人くん

 



ゴールデンウィークは実家に帰っていた。3日から5日にかけての3日間、帰るつもりだったが父親から2日の夜から4日の朝までだけでいいという連絡がきたので、その通りにした。
そして僕は今池袋に帰ってきた。
やっぱり田んぼの並ぶ実家も落ち着くけど、池袋は池袋で少しほっとした。

(──帰ってきた、って感じ。)

正臣と久しぶりに会ったあのときのように鞄をぎゅっと握って改札を通った。ただ違うのは今は人と肩をぶつけてしまうほどに混んでいないということ。
ゴールデンウィーク真っ只中のしかも、混まない時間を予想してきたから今の時刻は午前7時。

ボロアパートに迎い東口に進むと、見慣れた後ろ姿を見つけた。
が、こんな時間にいるはずもないような人だ。多分人違いだな。
暫く後ろ姿を眺めるとその人が横を向く。赤い目に、整った顔。
それは否定することもできないほど臨也さんだった。

「臨也さん!」

駆け足でむかい、そして隣に行く前に名前を叫んだ。
振り向く臨也さんが驚いた表情をするが、すぐにいつもの顔に戻った。

「なに?もしかして…朝帰りなの帝人くん」
「人聞き悪いですね!実家に帰っていたんですよ。臨也さんこそこんな時間にどうしたんですか?」
「俺も仕事帰りだよ。どうせだから池袋に寄っていこうと思って」

おぉ!この人と普通に会話できてる!
可笑しな感動に襲われていると、いつの間にか東口。

「それじゃあ、僕こっちですから」
「待って、」

にっこりと笑顔で別れを言う。ボロアパート方面はなにもないので臨也さんは別の方向だと思ったんだけど…、腕を捕まれた。

「帝人くん朝ごはんまだでしょ?仕方ないから奢ってあげるよ!」
「え?あ、はぁ…」

ぐいぐいと引っ張らてれ近くのファミレスに入る。
モーニングのメニューを見るが、臨也さんは結局コーヒーだけを頼んだ。
遠慮しないでと言われるが、正直こうも機嫌がいいと、怖い。

「どうしたんです、今日。えらく上機嫌ですね」
「そうみえる?…ねぇねぇ帝人くん今日なんの日か知ってる?」

5月4日は、みどりの日。
素直にそう答えると、臨也さんが吹いた。確かにそうだけどさと地味に笑っているようだ。

「今日ね、俺の誕生日」
「え!!?あ、え…!!じゃあ、なんかプレゼントを…!」
「もう祝ってもらう歳でもないけどねぇ」
「なにいってるんですか!誕生日は何年たっても、大事な日なんですよ!どんな人でも祝われていい日なんです!」

ごそごそと鞄を漁るが、あげられそうなものは何一つない。埼玉土産に正臣と園原さんに買ってきたものしか、まともなものがない。
でもそれはあげられないし…。
どうしよう。
そうだ、逆に朝ごはん奢ればいいんだ!と納得するが、財布を開けて諦めた。

「うーん…、あ!」

ポケットに携帯が入ってることを思い出して取り出した。
携帯には似たようなストラップが二つ。
二つで一つのペアストラップだが、形が気に入ったので片方を誰にも渡していなかった。

それを器用に携帯から外して臨也さんに渡す。

「キーホルダー…?」
「すみません!渡せるようなものがなくて…でも、」

携帯を持ち上げて、キーホルダーが見えるようにする。

「お揃いなんですよ」

驚くが、少しして臨也さんはまた吹いた。そして大爆笑。
なにが可笑しかったのだろうか。
はやく注文しなよ、と急かされてメニューに目を落とす。
そして手軽に食べられるものを注文した。
混んでいなかったので直ぐにきて、それを急いで口に運ぶ。
臨也さんは食べ終わったみたいで僕の食べる様子をずっと見ている。

視線のせいで食べっらい中、完食するとじゃあ行こうかとイスを立ち上がる。

「じゃあ付き合わせて悪かったね、帝人くん」
「大丈夫です。こちらこさごちそうさまでした」

それじゃあ寄り道しないで帰るんだよ、と頭を撫でられる。
優しい臨也さんは嫌いじゃない。
手をふってボロアパートとは反対方向に進む臨也さんの後ろ姿を見て、いい忘れていたことを思い出して駆け足で背中を追った。
中々振り向かない臨也さんの裾を掴むと、笑顔でいった。


「誕生日おめでとうございます」





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