喧嘩人形とノミ蟲と腐女子

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「手前…こんなところで何座りこんでんだ?」
「……はろー、静雄さん」
「お、おう…」

時刻は19時。
あの昼間頃からやはり戦争が始まってしまい、私には着いていけなくなった。
まあ、当然だろう。無駄に足の速い2人に着いて行ける訳がないし、開始数分で見失いましたよ。
そして池袋のとある道端で黄昏れるという今に至る。

「…って静雄さあああん!?」
「何だ」
「いつの間に追いかけっこ止めたんですかああ!臨也さんと何の話したんですかあああ!!」
「ああ?!臨也だあ!?」

我ながら勇気のある言葉だと思う。しかしながら私にとっては今日最大のメインと言っても過言ではない静雄さんと臨也さんのやり取りを見逃したという事実を受け止められず、ショックを隠しきれなかった。

「…臨也さん、そう…臨也さん、今日誕生日だったんですよ」
「………あぁ」

静雄さんは少しの沈黙の後、私の言葉に軽く頷く。まさかその反応は知っていたのか…!あ、昔からの付き合いなんだから知ってるよね。

「そうだ、名前」
「はい…?」

明白(あからさま)に残念そうにうなだれる私に、静雄さんは思い出したように何かを投げてきた。

「わっ、と!
何です?……ライター?新品じゃないですか」
「ノミ蟲に渡しとけ。俺はジッポがあるから。
あと伝言頼む」
「へ?あ、はい」

「――」

……鼻血が出ました。


*
「臨也さん臨也さん臨也さぶふっ!!」
「…騒がしいわね」

20時。私は鼻から溢れる血を拭いながら、臨也さんのマンションに走っていた。すぐにロックを解除してもらい、玄関に飛び入るなり柔らかい何かに追突した。

「…波江さん!今日もお美しい!」
「鼻血、汚いわよ」

「名前ちゃーん。ケーキ残ってるよ」
「はいはい食べます!じゃ、また!」

1ミクロンも興味なさげに私に視線を送り、波江さんは玄関から出て行った。入れ代わるようにして入った私を迎えたのは、パソコンの前の大きな回転式の椅子で回る臨也さんだった。

「臨也さん大変です。先程波江さんの柔らかい胸に顔を埋めてしまいました」
「それは良かったね」

興奮状態の私にもクールな対応の臨也さんは心なしか上の空で、タバコの箱を片手で弄びながらぼうっとしている。

「早速ですが臨也さん!
これ、静雄さんからです」

私は大切にポケットに入れてきた新品のライターを臨也さんに渡した。

「は?!………遅いし」

受けとった臨也さんが何か呟いた気がしたが、聞こえなかった。臨也さんはそのライターとタバコをテーブルの上に滑らせるように置く。

「静雄さん、俺はジッポがあるから、とか言ってましたよ。
臨也さんタバコ吸わなかったですよね?」

そう付け足した瞬間、何故か臨也さんはかあっと僅かに赤面。な、なんだ?!可愛いいな!

「あの化け物…絶対仕返しする…!」

いつもの臨也さんのペースは完全に崩れていて、妙に新鮮だった。
そんな臨也さんに、私は内心楽しみながら追いうちをかけるように静雄さんからの伝言を伝える。

「あと伝言です。
“明日来るなら、夜にしろ”だそうですよ!」
「っ?!」

臨也さんは驚いたような、悔しいような表情。そして顔を赤くしながら自分の左手の薬指を口元に当てる。
その臨也さんの薬指に、噛み跡のような丸い痣があるのを見て、私は思わず笑いをもらした。

「ハッピーバースデーですね、臨也さん」


(…名前ちゃん、最後までストーカーできなかったんだから本出すの禁止ね)
(ここまでたぎらせておいて!?)


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