ノミ蟲と喧嘩人形

 



「ねぇシズちゃん。いい加減にしてくれない?どんだけ野性的なの?気持ち悪いんだけど」
「煩ぇ煩ぇ煩ぇ!!!俺だってなァ見付けたくて見付けてるわけじゃねぇんだよ、臨也くんよぅ!!死ね死ね死ね」

只今の時間、もう日も暮れるからきっと18時過ぎだろう。ドタチンと別れたのが14時前で、そのあと直ぐに俺を呼ぶ声が池袋の街に響いたから、4時間は追いかけっこをしている。
そのまま駅に行って新宿までバックレようとも思ったのだが、駅にはまだ俺を殴った奴らがうろついていた。
あいつらも頭を働かせたものだ。
俺は新宿住みだからね、帰るには電車を使わなきゃだ。

だから単純に撒いちゃおうと考えたが、あの化け物。野性的な勘?匂い?とかいってどこまでも追いかけてくる。

そしてとうとう捕まった。
ポストを投げられて、避けて。
自動販売機を投げられて、避けて。
自動販売機の横のゴミ箱を投げられて、当たった。
それは見事に路地裏でのことで、なんともまぁ惨めな。…一応、誕生日なんだけどなぁ。

「は・な・し・て」
「嫌だ、死ね。つか殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!」
「もう!!離せよ馬鹿シズちゃん!!」

ジタバタと暴れると、パーカーのポケットに入れていた携帯と、ガーゼと飴の袋が落ちる。
ちなみに今はフードを持ち上げられ、宙吊りになっている。
ていうか、首しまる!痛い痛い、…苦しいっ!!
そして宙吊りという非常に不安定な中、俺はシズちゃんに抗うためにドタチンから貰ったビニール袋までも落として、なんだか泣きたくなってきたなぁ、俺。

「あん?なんだこれ」
「…シズちゃんには関係ない、いたっ!ちょ、急に落とさないでよ!」

掴んでいたフードを離されカッコ悪くもお尻を打った。容赦ないなシズちゃん…。
そして落としたソレらを拾われて凝視される。

「なんだ?なんかのパーティーか?」
「シズちゃんには関係ないってば!返してよ」
「あぁ!?人が聞いてんだろ!!素直に答えろ!!」
「なにそれ理不尽!」

缶コーヒーがシズちゃんの馬鹿強い握力のせいで悲鳴をあげそうだ。
下唇を咬んで、仕方なく言った。

「…今日、誕生日なの。それ皆からのプレゼント。だから返して」
「…………………チッ」

手を差し出す。すると素直に俺の手のひらに返した。
でも見逃してくれる筈もなく、目の前から退いてくれない。更には俺と会話をするつもりなのだろうか煙草を吸う。

「臨也くんよぉ、」
「なに」
「臨也くん、臨也くん臨也くんよぉっ!!!!」
「だからなに!!」

ふぅ〜、と煙を吐いてそして、地面を見ながら怒鳴る。
怒鳴られる意味がわからなくてこっちまで口調が強くなってしまう。

するとサングラス越しに俺を睨んだ。

「…なんでいわなかった」
「は?」
「だからなんで今日か誕生日だっていわなかったんだよ!!」
「だって別にシズちゃんに祝われなくたって…いいし」

「手前、俺の誕生日にジッポ入れといただろ」
「ッ!?」

バレていたか。
そう、シズちゃんの誕生日の1月28日に俺はわざわざジッポを買ってあげたのだ。
何故かときかれてもその時の気分だ、としか答えられないだろうな。所詮は気分なのだ。

それを今日返されようなんて考えなかったし、いらないとも思った。

「そうだけど…別に俺はシズちゃんから祝われたくないから」
「んだと!!?」
「て、わけだから帰るね。ケーキ食べたいし」
「待てッ!!!」

これで帰れるかと思ったのに、またしてもフードを掴まれる。

うげ、と声をだすと共にシズちゃんの顔の横にまで引っ張られて、ちょっとでいいから待てと耳元で言われた。

耳弱いこと知っててやってるからタチ悪いよね!くそ!

「ほら、」
「………なにこれ」
「何って…煙草だよ」

先ほど取り出した煙草の箱を俺に押し付ける。なにこれごみ処理?

「知ってるけどさ、これをどうしろっていうの?俺煙草吸わないんだけど」
「知るか。吸え」
「……馬鹿だよねぇ、シズちゃん」

不満そうにため息を溢すと不満なのか?と図星。は、っと短く息を吐いて歩き出そうとすると、おい!としつこく声をかけられた。
今度は無視して歩き続けると右手を取られた。そのまま馬鹿力でシズちゃんに握られて、その指はシズちゃんの口に入った。

しかも、薬指だけ。
見事に左手の薬指。
思いきり噛まれる、けどこれでも手加減しているのだろうなぁ。
本当…なんだよ、こいつ。

「…これで、いいか?」
「ば、はかシズちゃん!!」


焦った。
焦って焦って走り出して躓いて、疲れて歩いてそして煙草が目に入った。ライターが無い、と思えばいつの間にかコンビニに入って買っていた。

左手で煙草を持って火をつけた。
紫の線がついた薬指を見て。
煙草の匂いを嗅いで。
嫌でもシズちゃんを思い出す。



明日、仕返しをしよう。
傷は残らないだろうからきつめの指輪を買って外れないようにしてやろう。


波江と食べるためのケーキを買いながら、新宿の家に帰るのだった。




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