ドタチンと腐女子
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一瞬、私は耳が腐ってしまったのかと思った。
だって、あの臨也さんが抱き着いたり愛してるって言ったり、甘えているのだ。
相手は確かに頼れるドタチンさんだ。
しかし、あんなに臨也さんが懐いてるなんて思わなかった。良い意味で予想外だ。
「じゃあね、ドタチン!」
臨也さんは、ドタチンさんから貰ったであろうコンビニの袋を片手に、嬉しそうに歩きだした。
か、可愛い…!不覚にもきゅんとした!
そして私も追い掛けようと木の影から出て、簡単に辺りを見渡した。そして、驚愕した。
(し、静雄さん居るし…!)
これから2人が鉢合わせになれば、戦争(あらゆる意味で!ハアハア!)が起きるのは必須だろう。ま、巻き込まれたくねえ…!私は遠巻きに見ていたいだけなのよ!
「名前、こんなとこで何してんだ」
「あ、ドタチンさん…!」
木の側で真っ青になって震えていた私はまさしく不審者だったはず。案の定、公園を出ようとして居たドタチンさんに声をかけられた。
「ドタチンさん…臨也さんが…私としては誕生日にシズイザフラグがたって嬉しいことこの上ないのですが、だからといって公共物が飛び交う戦争が始まらないとは限らないですよねなにそれこわい!
で、でもでも2人がどんな会話して、どんないちゃつきを見せてくれるか私には見る義務があるのですよドタチンさん!!」
「分かったから落ち着け。あとドタチン言うな」
はあはあ、と自分の呼吸が荒くなるのを何とか押さえながら、私は目で何とか臨也さんの後ろ姿を追う。
「ドタチンさん…臨也さん、ハッピーバースデーになるでしょうか」
「それは俺にも分からん」
先程から臨也さんと静雄さんの方向を忙しく伺う私を落ち着かせるように頭を撫でてくれるドタチンさんからは、少し臨也さんの匂いがした気がした。
「臨也さんの匂いがする…」
「妙なことを言うな」
ドタチンさんは最後に軽く私の頭を叩いて、ひらひら手を煽りながら公園を後にした。大人の貫禄、むしろお母さんだよドタチンさん。
さて。
そろそろ臨也さんと静雄さんの戦争が始まるだろうか。
私はぐっと拳に力を入れて、公園を出て走りはじめた。