わんこ | ナノ




わんこ



「わんこだ!」
学校の屋上で、二人仲良く日向ぼっこ。暖かな風と、隣にいる織姫の雰囲気に癒される。
そんな織姫が放つ言葉を恋次はぼんやりと聞き流していた。

「ねえ、わんこさん。」
己を呼び掛けているのだろうか、しかし、恋次は聞き流した。いつものことだから。
「わんこさんってば!」
「いや、わんこさんではなくて、阿散井恋次ですが。」
眉を寄せた恋次の返答は、至極まともなものだった。何だか、それがおかしくて織姫は肩を揺らして思い切り笑った。
「恋次くんは、わんこなのですよ。」
「だーかーら、六番隊副隊長の阿散井恋次だっての。」
引き下がらない彼女に、はいはいと適当な返事をする。お気に召さない織姫は少しだけ頬を膨らませた。
「わんこっぽいよ。」
「どこが。どっからどうみても死神サマだろうがよ。」
「うーん、どちらというと気は優しくて力持ちないぬちゃんかな!」
いぬちゃんって、わんこより格下な気ィするんですけど。
「いぬちゃんよりわんこのがいくらかマシ。」
「わあ、わんこちゃん気に入ってくれた?」
ぱあっと表情輝かせる織姫に、髪をくしゃりとあげて深いため息をついた。

「いや、まったく。阿散井恋次っつうナイスな名前があるだろ。」
己の名前に誇りを持っている。
わんこなど、そんな可愛らしすぎる呼び名は俺には似合わない!断じてお断りだという表情を向けた。


「うん。六番隊副隊長、阿散井恋次くんだよね。でもね、でもね、あたしには、わんこに見えるんです。」
身を乗り出して、恋次の内股に手を置いて必死なその姿の方がわんこっぽいと密かに恋次は思った。


「分かった。なんでもいいぜ。ただし、人前でそんな風に呼ぶなよ。」
こうなったら手を付けられないと知っている恋次は渋々納得した。

「他の人についていっちゃだめだよ!あたしだけのわんこ。」
「……、飼い主サマがしっかりしとかねえと知らねえぞ。」

なんだかんだでノリノリに返す己に気付くと、織姫の髪をくしゃくしゃと乱した。

「もちろん!帰りにたい焼き食べて帰ろうね!」
「おう、黒あん白あん、白玉入り、全部制覇してやるぜ!」


嬉々とした表情の恋次の後ろに、千切れそうなくらいに左右に振れる尻尾が見えたような気がした。

「やっぱり、可愛いわんこだ。」
「恋次だって。」




ばかっぷる。










2012/01/04