あなただけに | ナノ




あなただけに
付き合う前と、その後では友達という期間に育んでいた関係から一段上に行くわけだから接し方も違えば、今まで見てきた『黒崎一護』とも違う新たな面も沢山見えてくる。

恋愛の醍醐味で、愉しい。

我が物顔で織姫のふかふかのベッドに背を預けて、高々と雑誌を掲げているのは橙の少年。
面白い記事でも見つけたのか、上った視線が下がって一定の位置を行き来している。そして、一護が小さく笑う。
仏頂面が緩んで優しくなって眉間に皺が出来る様を間近で見たいと、織姫は小走りで一護の元へ急ぐとベッドサイドに体操座り。
仲間だったらなかなか出来ないような事も、恋人特権と言えるのか今ならば思う存分に楽しめる。
嬉しくて、些細なことが楽しくて。
移り変わる表情を黙って眺めていた。
織姫の視線に気付いた一護は、一瞥するだけに止めて雑誌を捲った。

「黒崎くんって、ちょっぴりえっちだよね。」
「ちょっとじゃねえだろ。」
何を言い出すのかこの天然彼女はと、目をぱちくりさせた一護だったがこんな会話は日常茶飯事なので否定することもなくぽつりと返す。
「そっか。認めちゃうんだ。訂正します!すっごくえっちだよね。」
以前の彼からだったら考えらえれない発言に、唇を噛み締めて笑いを堪えた。
「……井上だってそうだろ。」
織姫の柔らかい声が耳に届くと、雑誌を読んでいる場合ではないと本能的に思ったのか読みかけのそれをベッドへ置き去りにした。
ふてぶてしくも腹の上で両腕を組んで、視線だけを織姫に向ける。
「うん。そうかも。でもね、あたしがこうなるの黒崎くんだけだよ。」
勿論織姫も否定できないというか、しない。
厭らしい子だと思わないで欲しい、あなただけなのです!
顔を上げて必死に言葉を紡ぐ織姫を見た一護は、分かっていますと頷いて込みあがる笑みを噛み殺した。

「じゃねえと、困りマス。」
甘い言葉の後には触れ合いたくなる。自分だけだと、言葉と肌で感じたいから。
行儀は宜しくないが、腹部をたたいてここまでおいでと織姫を誘った。

うんうんと嬉しそうに頷いて、短いスカートの中身が見えない様にその端を引っ張って、恥じらい見せつつ一護の下肢に跨った。
織姫の時折見せる恥じらいが可愛らしくてきゅんとなる。俗にいうオンナのかわいーなんて言葉は理解できなかったが、きっとこういう時に使うのだろう。
口から飛び出しそうになるが、ぐっと堪えた。
愛しい気持ちをぶつけるが如く、むにと両頬を摘まむ。この行為に大した意味は無い。
ぴくりと肩を揺らす織姫の眉が下がった。

「いひゃいよ……。いじわるはんたいぃ。」
「悪りィ。イジメたくなった。」
やばい、やっぱり可愛いと気持ちが高まってしまう。むにむにと散々遊び倒して漸く解放。
「黒崎くんは、えっちでいじめっ子だね。」
頬が伸びてしまうのではないかと、心配になった織姫は解放されたそこの両手でマッサージして抗議の声を上げた。
「他の女だと、こんなんしたいって思わないんだけどな。」
「あたしだけ?」
「そらそーだろ。」
近づく大好きな人の顔に、心音が細かく速くなる。
織姫は顔を離そうとしたが、背中に回るのは一護の腕。
逃げることを許してくれない。早々と観念した織姫は、一護の胸板に遠慮なく抱きついた。
一護のごめんの代わりの優しいキス。
意地悪の後にはいつもこう。

優しい所は変わらずに、見えた少年らしい一面に織姫はふと笑みを浮かべた。
実は、えっちで意地悪くて、でもすっごく優しい。

どんな一面が見えても、ずっと大好きなんだろうなと、仕返しに一護の頬を摘まんで笑った。






2011/03/22