リアルな俺にしときなさい! | ナノ




リアルな俺にしときなさい!
そんなこんなで織姫が夢の中の一護の夢中になってから早一週間。日々楽しげな織姫とは対照的に、一護は全くもって面白くなかった。
就寝前は一番、ラブラブできる筈なのに――。就寝前がこんなにも嫉妬してしまう時間になるなんて想定外も良い所。
織姫の夢の中の自分に嫉妬するなんて話は前代未聞だ。

「今日は、どんな黒崎くんに会えるかなぁ。」
「いや、俺はここにいるじゃねえか。」
また夢俺とのお惚気が始まるのかと、一護は自分を指差してうんざりとした表情を向けた。
「うん。でもね、ふふっ、やっぱりヒミツー。」
楽しげな織姫に、一護は心の中で恋をする相手を間違っていると呟いた。今日という今日は反撃してやろうとそんな気持ちで一杯だった。

現実世界の『黒崎一護』を織姫のその柔らかいカラダに刻みつけてやろうと躍起になっていた。
小さな花柄のついたワンピース型のもこもこパジャマを身に纏う織姫は一護の隣で暖を取っていた。
あったかいねぇ等と言いながら無邪気に一護にくっついてくる。

「つーか、その夢の中の俺は……こんな事しねえだろ。違うか、出来ねえんだ。」
「わわっ、どうしたの?」
両腕を掴まれて、覆い被さる一護を頬を赤めて見上げた。この先の出来事を分かってはいても、織姫は一護に確認する。
分かっているくせにと言いたげな一護の表情に、織姫は更に顔を赤らめた。
「夢の中の俺はこういう事してくれんのか?」
一護は織姫に顔を近づけて下唇を余韻残すようにねっとりと舐めあげる。たったそれだけの触れ合いで、織姫は堕ちてしまう。
「んっ、こーゆーことしてくれるのは黒崎くんだけ。あったかい気持ちをくれるのは、黒崎くんだけだよ。」
うっとりとした表情で一護を見上げて、指先で下唇を象った。
下着の色だって、感じている時の顔だって、この柔らかい感触だって夢の中の俺は何一つ知らない。ましてや、触れ合うことなど叶わない。

つまりは、織姫の味と感触を知っているのはこの世で唯一人、自分だけだと。
そう思うと一護は、満足げに口端を釣り上げた。

初めから、勝負は決まっていた。

なんでもいいから、リアルな俺だけを見とけ胡桃色の髪を指に絡めて囁いた。

たっぷり愛し合って、お腹一杯の状態でご就寝。
ぬくもりを確認しあって、ぬくぬくした状態で眠りの一歩手前。

『おい、オレ。寝てんじゃねーよ。織姫は、オレのもんだからな。』
一護だって呼んだことがないのに、まさかの織姫呼びに驚く。
織姫の夢の中の一護で有るはずの恋敵が現実世界の一護の夢の中にも出てきた。


夢か現か、頭上に降りかかる声に一護は目を見開いた。












2011/12/17