遠距離恋愛 | ナノ




遠距離恋愛
一心と同じ路を辿ることにした一護は、県外の有名医学大へと進学をした。
ここでなければいけない理由などは無かったが、人の命を救う職業に将来的には就くわけなのだから、真剣に勉学に励みたかった。
加えて、親元を離れて、自分だけで生活をしてみたかった。
織姫と離れることには、随分と悩んだものの、彼女が背を押してくれたお蔭で、進学を決意したのだった。
互いに忙しくて、三か月振りの再開。


久方ぶりの再開に互いに、照れくささからか互いに無言になっていた。久方ぶりであるにも関わらずに、列車に乗って二人で遠出。
話したいことはたくさんあるのだが、うまく会話が繋がらない以前に、一護は一段と美しくなった織姫を直視できないでいた。

本音としては、熱い抱擁に激しい口づけくらいはしたかった。

胡桃色の長い髪は綺麗なままで、ナチュラルではあるが化粧も施していた。笑顔は無邪気なままなのだが、端々に色のついた女を感じさせられる。
先ずは、唇に薄く塗った桃色のグロスに目が行って、どうやってまた成長したのか胸元に視線が向かった。
会わずにいた三か月間は、電話とメールのみでの遣り取りだった。まさか、織姫がこんなに女に成っているなんて、想像もつかなかった。

「黒崎くん!たつきちゃんが、会いたがっていたよ。」
沈黙が息苦しくなった織姫の声にはっとなって、一護は顔を上げる。共通の友人を思い出して、その懐かしさに目を細めた。
たつきに会ったら、織姫を今までほったらかしにしてーとか言われるんだろうなとか、頭を手加減なしに殴られるんだろうなーだとか、高校生の頃の思い出が過って口端を緩めた。

幼馴染が会いたがってくれてるのは非常に嬉しい、じゃあ恋人の井上は?
疑問を留まらせたままにしておきたくなくて、背もたれに腰を預けて深く座り直して発した。

「井上は?井上は、俺に会いたかったか?」
言い切った後で、列車はトンネルへと入っていった。聞こえる外の轟音と、併せて起こる耳鳴りに眉根を寄せて向かい合う織姫をじっと見つめる。
「あ、会いたかったよ!当たり前だよ。ずぅーっと、会いたくて仕方なかったよ!」
堰を切ったように溢れ出る想い。我慢させていたのだろうか、その心情は織姫の表情から窺えた。
「俺も、だ。井上……。」
向かい合うこの距離ですら遠く感じた一護は、織姫へと手を伸ばした。

織姫に、触れられない、一分一秒がもったいない。

羞恥心なんて、どこかに捨ててしまえ!


「ここ、こいよ。抱きしめさせてくれ。」
ぽんぽんと膝上を叩いて、織姫を誘う。甘いおさそいに乗ってしまいたい織姫だったが、ここは列車の中で、ぽつぽつとだが人がいる。
「ひ、ひとがみてますぞ!」
胸をたぷんと揺らして、その前で両手を振って拒否を示す。
「いいから。」
じれったくて、仕方がない。
「ひゃあ!」
強引すぎる一護の手によって、織姫はちょこんとお膝の上にお邪魔することになった。
「こうすんのも、久しぶり。」
「ううっ、黒崎くん。強引すぎます。でも、久しぶり。柔らかい髪大好き。」

抱きしめられると、むぎゅっと織姫の胸に顔を埋められた。嬉しいような、複雑なような。
気にせず織姫は、一護の橙の髪を指に絡めては遊ぶ。むにむにと柔らかい胸が当たって、一護も気が気ではなかった。
「井上、苦しい。気持ち良いけど。」
「えっ、わっ、ごめんね?」

自分の胸で、一護を圧迫していることに気付いた織姫は僅かに身体を離して後ろ手に頭を掻いて申し訳なさそうに笑う。


「許してやんねえ。」
駄目だ。久しぶりの井上は色んな意味で、魅力的で、愛しさが100倍ほど増してしまう。
身体ごと、欲しい。

「ええっ、ごめんね!そんなに苦しかった?」
視線を下ろして見つめる一護の瞳に、怒りは感じ取れなかったが、何か別のモノを感じた。おろおろしつつ織姫は、一護の頭を何度も撫でた。
「つー訳で、抱かせてもらうから。」
どういう訳で?と織姫は、一護に問いかけたくなった。
だめだよ、とか、みられちゃうよとか耳元でごにょごにょと囁いたのだが一護の耳には届いていなかった。
しょうがないなあと、目を細めた織姫は一護の髪と、おでこにキスを落とした。

我慢しっぱなしの遠距離恋愛。

一護は、織姫の胸に顔をうずめて、意味深に笑った。








つづきは、卑猥妄想文にて。



2011/11/29