性欲のゆくえ | ナノ




性欲のゆくえ
織姫は甚だ一護の性事情に興味が在ると同時に幾許かの疑問を覚えていた。
(黒崎くんは、えっちな気持ちにならないのかなぁ。)
一護の部屋に招かれたときに、一瞬の隙を見てベッドの下を覗いてみたがそれらしい本などはまるでなく、年頃の男を感じさせない清潔感溢れすぎる部屋、加えて爽やかすぎる笑顔。
男らしさは端々に感じるのだが、『年頃の性欲』はどこかに置いてきたような振る舞いをする。
そこに禍々しい性欲を感じたことは無いのだ。


キスをしたこともなければ、手を繋いだこともない。
彼氏のいる女生徒の会話を聞き耳立ててみると、やれ昨晩は激しかった―だとか、キスしちゃったーだとか。皆、揃いも揃ってお盛んなのだ。
羨ましいわけではないが、好きな人との触れ合いというものはどのようなものなのか。それを、感じてみたい。
比べて二人の交際は、極めて美しい男女交際とも言えるのだろうが、織姫は『女』として見られていないような気がして寂しくも感じていた。
自分たちのペースで進んでいけばいいと言われても、今後、彼の性欲が自身にまで届くのか、女のとしての魅力がまるでないのではないか、他の女性に向いているのではないか等、思考はネガティブまっしぐら。

「井上、何考えてんだ?」
一護の部屋の隅っこの方で体操座りをして、ずーんとした表情で物思いに耽る織姫に近づいて問いかける。
言ってしまえば、スキンシップ不足気味の織姫の心なんて露知らずの一護。
大好きな人の声音が耳元をすり抜けるのを感じると顔を上げた。
「ん、くろさきくんって、えっちな事考えたことあるのかなぁとおもっ……、なぁんて…。なんでもないよっ!」
優しい声に誘われてついつい吐露した本音に、焦りに口端を釣り上げて引き攣った笑顔で頭の後ろに手をやった。

「はあ?」
どこかに昨晩の使用済みのティッシュでも置きっ放しになっていたのだろうかと、視線を巡らせるもそれらしいものは見当たらない。
そんなことがあるはずはない。だった、早起きして部屋の掃除を完璧にしたのだから。

「……、いやいやいや、ストレートに聞くなよ。」
織姫の前に腰を下ろして胡坐を掻くと、彼女の思いもよらぬ言葉に同じく顔を引き攣らせた。
『そんなこと考えたことない!』と、言えたらどんなに楽か。一護とて、いち男子高校生。人並み、いや、それ以上に性欲だってある。
目の前の胡桃色の髪の少女には口が裂けても言えぬが、織姫のカラダに興味津々だし、夢の中で幾度も犯した。良い様に扱って、卑猥な妄想など数えきれぬほど、だ。

「あははっ、気にしないでね!」
無意識のうちの言葉が一護を困らせ、驚かせて、更に変な事ばかり考えている女だなんて思われたらどうしよう。
恥ずかしさと不安で、両足を抱えて膝上に額をぐりぐりと押し付けて身体を左右に揺らす。
この沈黙が堪らなくつらい。どうしようか。
勢いついでに、聞いてみよう、我慢ならんと顔を上げた織姫は一護の目を見つめた。
「でも、でも、でも、ホントのところはどうなの?」
「………、やらしーこと考えない男なんていねえよ。」
織姫の縋りつくような寂しそうな瞳に負けた一護は、自分も例外ではないと言ったようにやんわりと答える。
「!うそー。黒崎くんも考えたりするの?意外!」
体操座りを解いた織姫はぴょんっと立ちあがって正座、一護の内股に手を置いて問いかけるその瞳は輝いていた。
引かれると思っていた一護だが、意外な織姫の反応に目を見開く。彼女の目に、どう映っているのだろうか。
卑猥なことなど一切考えていない、『黒崎一護』を想像してもらっていても困る。
あんな反応をするくらいなのだから、『黒崎一護』という人物は性欲など一切ない人間だとでも思われているのだろう。
織姫に嫌われないように、理性を保って『男』の部分を見せないようにしているだけなのに。
嬉しい反面、困ったものだ。

「そりゃ、する……。」
「えっちな本とか読んだこと有る?」
「ある。」
「!そう…なんだ。その、せくしーな女の人の方が好み?」

一護に性欲自体はあるのだと理解すれば胸をなで下ろすが、自身にそんな素振りを見せないのが妙に寂しいような。
見知らぬ女性のカラダに興奮しているのに。と考えると知らぬ女性への嫉妬心からかきゅうっと胸が締め付けられるのを感じた。

『セクシーな人の方が好み?』

その問いかけに一護は、押し黙る。好みというか、性の対象が目の前にいるのだから。
勿論、性の対象だけではなく、想っているからこそ心もカラダも欲しいという極一般的な感情。

「俺は、い…井上みたいなのが好み。」
真っ直ぐ見つめられてしまえば、白状せざるおえない状況に陥った。
言った後に、言い過ぎかもしれないが浮気がバレた時並みに心音がバクバクと大きく音を立てて五月蠅い。

「あたし、せくしーじゃないけどいいの?」

無意識なのか誘っているのか、むにっと両手で胸を持ち上げると眉を下げて真剣な表情、前者であろうその行動を目に焼き付けてこくっと頷いた。
無意識ゆえに、恐ろしい行動と発言だ。

「十分過ぎるぜ。」
「あたしで、どきどきしたりとかえっちな事考えちゃう??」

一護の性欲満タンは理解できた。そして、勢い任せで、羞恥を捨てた織姫はぐいぐいと最後の疑問をぶつける。
『女』として見られているのか。決して、おふざけでの質問ではなくてその表情は真剣そのものも。
大胆すぎる織姫にたじろぐもまたしても、素直にならないといけない状況に陥った。

「そんなのは毎日毎晩だ。」

低く返された声と、艶っぽく見える一護の瞳に射抜かれて、求めていたはずの一護の性欲なのだか、そこから感じる強すぎる欲情に織姫は身を縮こませた。

隅っこに逃げてしまいそうな織姫の手を掴んだ。




今まで押し殺してきたきみへの性欲を、きみにぶつけてもいいんですか?




2011/11/19