かれしかのじょ(一織) | ナノ




かれしかのじょ
「いちごー、オマエ、昨日井上さんと一緒に帰ってただろ!どんな関係なんだ?」
身振り手振りで小さな身体を大きく動かすライオンのぬいぐるみ、もといコンを一瞥してため息をついた。

「ただ一緒に帰ってただけだ。」
「いやいや、ただならぬ関係だったぞ!!」
興味津々に騒ぎ始めるコンに背を向けて、聞こえぬふりをしてベッドに寝転んだ。

付き合ってることは、付き合っているのだが、未だ触れ合ったこともなければ、甘い言葉を紡ぎ合った記憶もまるでない。



つーか、付き合っていることは、誰にも秘密。

コンにも、ルキアにも。恋次にもたつきにも、もちろん家族にも。

つーか、そもそも付き合ってると思ってていいのか?
確かに、井上から告白はされて、頷きはしたが、その先の返事はしていない。
返事はしてなくても、井上なら分かってくれている。なんて、勝手に思ってみたり。
なんて、考えだしたら止まらなくなった。

「黒崎くん。少しだけ、寒いね。」
学校から少し離れた公園で待ち合わせて一緒に帰宅。
清く正しい交際を隠す必要なんて無いのだが、一護はなんとなく気恥ずかしかった。
『井上は俺の彼女だから手ェ出すな!』なんて、恋愛にアツい男でもないから口が裂けても言えない。
学校で、付き合う前以上にそっけなくしてしまうものだから、織姫には寂しい思いをさせているのではないか。
遠慮がちに距離をとる織姫を見て、ぼんやり思った。

「黒崎くん、聞いてる?」
「え、あー。ああ。聞いてた。聞いてた。」
「うそだぁ。ぼんやりしてたでしょ。今日のごはんは何かな?とか考えちゃった?」
からかうように笑って、一護の顔を覗き込む。その言葉に軽く笑って、数歩分の距離を縮めた。
「彼女といる時に、そんな事は考えねえよ。」
今の自分たちの関係の確認。どんな反応がかえってくるのやら。珍しく、緊張しつつ返答を待つ。
『彼女』という言葉にドキリ。ストレート過ぎる一護に、一歩後ずさり。逃さないと言わんばかりに近づく。

「彼女だなんて。きょ、今日の黒崎くんは、三味くらい違いますな!」
織姫らしい回答に、穏やかな笑みを浮かべる。慌てるその様が、可笑しくて、もっと見たくて思うままに放つ。
「三味ってなんだよ。……違わねえよ。井上は俺の彼女だろ?」
いつのまにか二人は寄り添うように歩いていた。

またまた驚かされて、織姫は一瞬立ち止まる。
「うん。じゃなくて、はい。黒崎くんはあたしの彼氏…です。」
またまた遠慮がちにいう声が震えていて、一護はこそばゆさに耐え切れず、嬉しさを隠すようにそっぽを向いた。

「……、訂正する。今日の黒崎くんは五味くらい違うよ。」
暖かさに覆われたと思えば、指先に絡むのは、一護の指先で。
「そうかもな。」

赤くなった二人の頬が、ひんやりとした秋風が掠めた。



2011/10/19