キミがタイプ | ナノ




キミがタイプ
静けさ深まる二人きりの食卓にジュリーは、ちらりとアーデルハイトに視線を向けて、不機嫌であろう彼女を確認する。
思い当たる節が多すぎて、どれを謝っていいか分からずにうーんと唸っていた。ごちそうさまと箸を置くと、キッチンの流しに食器を持って行く。
無機質な音と、アーデルハイトの箸を置く音を聞いたジュリーは隣に座って飛び切りの笑顔と、明るい声音で真っ向から彼女が何故こうも不機嫌であるのかを問いかけた。

「そーんな、ご機嫌悪くしてどうしたの?まァーた、嫉妬しちまった?」
へらへらと笑みを携えて、冗談交じりに放った言葉がどうやら大正解だったようで、鋭い視線をジュリーに投げつける。
「ナニ。どれ?つーか、嫉妬しすぎだっつうの。オメーは、ホント、そういう所が可愛いんだけど……。」
上級生、同級生、下級生など、声をかけた女子生徒は数えきれないほどで。これでもない、あれでもないと指折り数えてジュリーは考えた。
「ジュリーは、素直で、可愛らしい子の方が好きなんでしょ!」
「ああ、好きだな。」
間髪入れずに返答。押し黙ったアーデルハイトの表情が迫力的で、顔だけ後退させる。美人の睨み程きついものは無いのだ。
「やっぱり、私とは正反対の子がいいんじゃない。」
お怒りかと思いきや、表情が一転して肩を落としてしゅんっとした表情で呟いた。
「それが、アーデルの不機嫌の理由っつーワケ?」
いまいちピンと来ていないジュリーは、腕を組んで首を盛大に真横へと傾けた。
「違うわ。素直で可愛らしい子が良いって言ったじゃない!……ただ、私とは違う子がいいんだなって思っただけよ。」
「そんな事言ったか?」
珍しく真面目な顔をして反論すれば、己が言ったのか定かではない言葉に眉を寄せた。
「いったわ。この前、TVに出てたアイドルの事…、素直でしつこいくらいに可愛い可愛いって言ってたじゃない。」
「…………、言ったかも。あれは、別に本気で言ってた訳じゃねーよ。」
そういえば、今で皆でTVを見ていた時に、可愛いらしくてちょっとおばかな雰囲気のアイドルに対して、素直で可愛いと言ったかもしれない。
そう思ったのはほんの一瞬だったから、記憶の片隅にも残っていなかったので、曖昧に答えておいた。可愛いなんて常套句のようなもので心の底からの言葉ではなかった。
問題はそこではなくて、アーデルハイトがそんな小さなことで悩んでいただなんて思いも寄らなかった。
矢張り、可愛らしい恋人だ。
いつでも、自分のことを考えてくれているのだと知ると、ジュリーの顔もついついにやけてしまう。
「何回も言ってたから、そういう人を求めているのかと思ったの。」
「オレが求めてんのは、アーデルハイトだけなんですケド。分かってねぇな。」
そこが、かわいーんだけどといつものジュリーらしいふざけた声音だったが目だけは真剣だった。
「ふざけないで!違うんならもういいわ。機嫌悪くしてごめんなさい。……忘れて。」
ジュリーの言葉の嬉しさと、己の思い違いにアーデルハイトは恥ずかしさから頬を赤くして、素直に謝罪すると拳握ってそれを抑えていた。
ご機嫌は直ったのか、アーデルハイトの表情にも落ち着きが戻っていた。
「なァんか、嬉しかったから忘れてやんねーよ。」
もうっと、不服そうに眉を寄せるアーデルハイトを後目にジュリーは肩を揺らして笑った。
「ヤキモチやきで、素直になれねぇような女がタイプ。アーデルは?」
「……へらへらしてるけど、いざって時に頼れる男の人が好き。」
「それって、オレちんのこと?」
わざとらしくアーデルハイトの顔を覗き込むと、ジュリーの頬にアーデルハイトの掌が軽く触れた。
「ばか、他に誰がいるのよ。」
ちらりと遠慮がちに見つめられてはたまらない。
これ以上、虜にしてくれるなと、ジュリーは思った。










2011/12/26