将来的には必要 | ナノ




将来的には必要
育ち盛りの中学生のいる民宿の冷蔵庫は、大量に買い込んでいてもものの見事に三日で空っぽになっていた。
「ジュリー、お買いもの手伝って。」
学校が終わると、女の子にナンパ中のジュリーを見つけて嫉妬に眉を寄せれば、粛清だと声を上げて頬を引っぱたいた。
買い出しの手伝いをしてもらうのだから、これでも控えめにした方だ。ジュリーの真っ赤になった頬に僅かながらに心の中で謝罪を向けてスーパーへと向かう。

「で、今日の飯は?」
気怠そうに欠伸をするジュリーがアーデルハイトに尋ねた。首を傾げて何にしようかと悩んでいたが、昨晩炎真がオムライスが食べたいと言っていたことを思い出した。
「そうね、今日は……、オムライスにするわ。」
帰ってから手軽に作れるので、メニューは即決定。
「なんで、オムライス?オレはカレーのが食いてぇな。」
「炎真が食べたいって言ったの。」
少し言いづらそうに目を伏せて、どんな反応をするのかと視線を向けると予想通りにジュリーの表情は面白くなさそうだ。
「アーデルちゃん、炎真に甘いね。」
「……シモンファミリーのボスだもの。」
軽く笑うジュリーの内心にどんなものが潜んでいるのかは分からない。納得してくれたのかは分からなかったが、それ以上は何も言わなかった。
籠を持つジュリーに置いて行かれないように、アーデルハイトは彼の隣に並んだ。
野菜やら、卵やら、飲み物などを大量に買い込んで籠に入れる。勿論、みんなが好きな大袋のバームクーヘンも。食後のフルーツも忘れずに籠に入れた。
買い忘れは無いかと、アーデルハイトは籠を覗き込んだ。
「これだけ買えば、一週間くらいは持つかしら。」
買い忘れがあったとジュリーは呟いて、併設された薬局コーナーへと足早に向かった。
「薬は、足りていたはずだけど?」
幸い病人もいない、何かあるのだろうとアーデルハイトはジュリーの背を追った。
風邪薬でも、痛みどめでもないようだ。ジュリーはその奥にいた。

「?何か欲しいものでも有るの?」
「これ、アーデルとオレの将来のために。やっぱこっちの生にちかい激薄ってのがいいよな!」
真剣に悩む背中を覗き込んだアーデルハイトは目を疑った。
ジュリーが片手に持つそれは、所謂、避妊具である。いかがわしいパッケージに目を逸らして見慣れないそれに動揺した。
「そ、そんなの必要ないわ!」
「おっ、ダイターン。生でやっちゃう?でも、ハジメテで生は不安だろ。」
にやにやするジュリーとは反対にアーデルハイトの顔は真っ赤だった。ジュリーからは恥ずかしい言葉が飛び交う。
生でとかいう前に、そういう行為に及んだこともないのに。ましてや、恋人同士でもないのに。アーデルハイトは恥ずかしさでいっぱいだった。
「なっ!お前は、どうしてそんなにいやらしいのっ。私たちはそういう関係じゃないわっ。」
「マジで、アーデルと恋人同士って思ってたのオレだけっつうオチ?」
ここにきてまた意外な言葉に口をぱくぱくとさせた。アーデルハイト同様に、ジュリーも驚いていた。
確かに、ジュリーの事は大好きだけれども、好きだなんて言われたことは無いし、彼は校内で所構わずに他の女に声をかけまくっている。
好意を向けられているなんて思ったことがなかった。
シモンファミリー内で恋愛なんてファミリーの皆に示しがつかない。と、ぐるぐる様々な思いが駆け巡っていた。
問題はそこではなくて、相も変わらず破廉恥な発言ばかり繰り返すジュリーを粛清しなければと言葉よりも先に出てしまう手を軽く避けられた。
「愛し合う時に必要っしょ?」
そういわれてしまっては何も言えない。今のアーデルハイトの表情はすっかり乙女だった。
籠にド派手なパッケージのコンドームの箱を入れてジュリーは楽しげな表情を浮かべてレジへと並んだ。

レジで女性店員がコンドームの箱を掴んで、ジュリーとアーデルハイトの顔を交互に見つめた。
今夜使うのかな?等思われたのかもしれない。もしくは、近頃の中学生は等と思われたかもしれない。
その真意は明らかではないが、アーデルハイトはその視線に羞恥を感じてジュリーの後ろにそっと隠れた。


「やっぱり、こんなの要らないわ。みんなに見られたらどうするの?」
「ぜってぇいるっつーの。いざするとき無いと困るだろ。オレがもっとく。」
「……、私がもっておくわ。他の女と使われたらたまらないもの。」
へらへらと笑うジュリーの頬を思い切り抓って、買った避妊具をそっと鞄に隠した。

「やーっぱ、オレちん愛されてんねー。アーデル、捨てんなよ?」
へらへらした表情が更に緩んでにやにやした表情へと変わった。
「ばか、捨てないわ。もう、ジュリー、ごはん抜きにするわよ。」
すっかりジュリーのペースに持って行かれたアーデルハイトは不服そうに見つめて、小さな悪戯をしてみた。
「んじゃ、アーデル喰わせて。」

ジュリーの瞳は、本気だった。不必要だったはずの避妊具は、今夜まさに必要になるかもしれない。

その前に、アーデルハイトは聞きたいことが山ほどあった。













2011/12/08