Nobody knows | ナノ




Nobody knows
「よし、ダリィからサボろう!」
昼食も終わって、腕時計に視線を向けると授業開始まで数分。気怠そうに欠伸を一つ残して、青々とした空を見上げてから明るい決意とともに頷いた。
こんな天気の良い日に授業なんてものはやってらない。
なけなしの良心によって起き上がらせていた上半身を、怠惰によってまた地へと寝かせる。
瞼を閉じかけたその瞬間だった。

「鈴木アーデルハイトってさぁ。」
片目を見開いて、好奇心から身体を起き上がらせて声のする方に視線を向ける。向けた先の、男子中学生には見覚えがあった。同じクラスでもなくて、ええっと。
両腕を組んで、首を傾げると見事に先日の光景が蘇った。
校内でタバコを吸っただとかで、アーデルハイトに粛清されていた男子三人組だ。どんな会話が繰り広げられるのだろうかと、耳を澄ます。

「美人で、巨乳だけど、すっげえ怖くね?マジ、この前、殺されるかと思った。」
「分かる!なんつーか、近寄りがたいっつうか、気ィつえーし、いつも眉間に皺よせてるし、ちょーこええ。」
真ん中の男が端二人に同意を求める様に問いかける。二人とも声を上げて頷いて、思い思いのため息をついた。
「男みてーなやつだけど、一回くらいはヤッてみてーよな。ほら、おっぱいぶるんぶるん揺らしてエロそうじゃね?」
「わかるー。つか、きっとあの女はドSだな。騎乗位とかだいっすきなハズだぜ。」

げらげら笑って下品な笑いを浮かべる男たちに、くだらないと乾いた笑いを浮かべた。

「アーデルの事なーんもしらねーくせに。」
気が強いというか、責任感や正義感の強い彼女の事を、それは元来よりもって生まれた性質などと一言で片づけてしまうのは非常に嘆かわしい。
本来の性格というべき所もあるが、環境が彼女をそうさせた所もある。幼いころに、両親を奪われてファミリーを支え、育ててきたのは彼女だ。
誰よりも強くあろうとしていたし、弱音など吐いたことも無かった。民宿では、年も変わらぬファミリーの姉代わりだってしている。

思春期真っ盛りの中学生の女の子が、一家の主のような立場ということがどういう事か分かっているのだろうか。
家に帰れば、母親や家族がいるのが当たり前と思っているものには、分からない感情をアーデルハイトは抱えている。
けれど、そんな素振りを見せた試しは無く、常に虚勢を張っている。
きっと、甘え方を知らないでいる。

本当は、甘えたで寂しがり。そこら辺の女の子となんら変わりないのに。
自分以外は、知らなくていい本来のアーデルハイトの姿。

アーデルハイトの苦労も、決意も、熱意も、何一つ知らないでいるだろう。
「一個、ハズレ。ドSじゃねぇし、騎乗位は恥ずかしがってやってくんねーよ。」






すっかり覚めた眠気のせいで退屈さが蔓延る。立ち上がると鉄格子に肘を預けて、グラウンドを覗き込んだ。

そこには、遠目からでも長身でおっぱいを惜しみなく揺らして走るアーデルハイトがいた。



アーデルハイトに会ったら、抱きしめよう。甘えてくれるまで。


2011/11/25