まだ中学生なんだよ。 | ナノ




まだ中学生なんだよ。
放課後、並盛民宿へと帰宅する影が二つ。
ジュリーの頬は盛大に腫れていた。理由は言わずとも、唯一つ。女子生徒にセクハラを働いたとの事でアーデルハイトに粛清のパンチを喰らったのだ。
「っとに、そんな怒らなくてもいいだろ。」
背をピンッと伸ばして前を歩くアーデルハイトを見つめて不貞腐れた声音で呟いた。
振り返ったアーデルハイトの瞳は自業自得と言いたげで、ジュリーを一瞥するとすぐさま視線を背ける。
「学校で、あんな破廉恥なことをするからよ!全く。」
遅れて届いた声音からは怒り、そして紛うこと無き嫉妬が窺えた。

校内で女生徒を抱きしめたー、だとか、身体に触れたーだとかならば『セクハラ』だと罵られても構わなかったが、可愛いと思った女の子にメルアドを聞いただけでセクハラと粛清されるのは如何せん、納得できない。
ジュリーにとってはお遊びのようなもので、そこに大した意味はないのだ。
可愛い子にちょっかいかける。
天性の本能というべきか、それが何となく面白いし、甘くないツンツンツン×∞な本命への些細な抵抗もあったり。
普段は右腕的な事なのだが、炎真の事で頭がいっぱいのアーデルハイトなのだから。
炎真に関してはベタ甘なのに、自分には………。まあ、甘えさせて!なんて言わないけれど。
少しくらい可愛く微笑みかけてくれたっていいだろう。
自分一人にゾッコンラヴというわけではないように思える。
ほんのすこーしくらい戯れたって罰は当たらないだろ、と身勝手で如何にも中学生男子らしい思考で行動していた。


「ハレンチってオメー、いつの時代だよ。メルアド聞いただけだろ。別にいーじゃん。」
珍しくジュリーはアーデルハイトに楯突いた。
「………。」
アーデルハイトが怒れば、ジュリーも渋々謝って、それでぼんやりと事なきを得ていたのだが今回のジュリーの抵抗にアーデルハイトは僅かに動揺していた。
しかし、それを見せないように前だけを向いて凛とした表情で民宿を目指す。

「っとに、妬くなよ。」
「だ、誰が妬いてなんかいない!」
「妬かなくても、オレちん、こう見えて一途なんだって。」
すらりと伸びた背と艶めかしい脚に視線を向けて、根拠のまるで無いセリフをきりっとした表情でいう。
「嘘、私だけだったら他の子にメルアドなんて聞かないわ。」
それはないと一蹴してから、さらりと冷たく返す。
「あー、そうっスね。」
言われて納得。
「ほら、やっぱり。うそつき、ばか、セクハラ魔!」
あっさりし過ぎた返答にアーデルハイトのお怒りは更に深まって、きゅっと唇を噛み締めて拳を強く握る。
この男は、どうして自分一人だけを見ないのだろうか。
自分には甘い言葉なんてあまり紡いでくれないくせに他の女生徒にはやれかわいーなど言って。
別に可愛いなんて言ってほしいわけじゃないけれど、向けた視線くらい受け止めてほしいものだ、と、アーデルハイトの思考も大人びた外見とは異なって年相応。

嫉妬と怒りを織り交ぜてむすっとした表情で振り返った。
「つか、そんだけ言われるって事は愛されてるって事か?」
顎に蓄えたヒゲに触れつつ、浮かべた笑顔はどこかいやらしい。

「ちがっ!お前は、本当に…ひどい男!」
図星つかれると思い切り首を振って否定する。
「まーね。不誠実だよなー。んで、おまえはツンツンツンしすぎ。」
両腕を頭の後ろに組んでそっぽを向くと、他人事のように吐き捨てる。幼い頃からの癖で言われたら、言い返す。
視線だけ、アーデルハイトに重ねた。一瞬重なった視線はアーデルハイトの方から逸らされて背を向けたかと思えば早歩き。
「ツンツンツンって何よ。ジュリーが私を怒らせるんじゃない。」
遠まわしに可愛げのないオンナだと言われたように思えて、口調に棘があったが寂しそうに眉を寄せる。
ジュリーに対して素直になれないことくらいアーデルハイト自身も分かっていたし、直したい欠点の一つだということも分かっていた。
「なーんで、オレちんアーデルになーんもしてねぇだろ。」
「してるじゃない。他の女のことばっかり。誰が可愛いとか…。色んな子に声かけて。どれだけ言ってもやめないじゃない!」
「だーって、そうしないとアーデル、オレのこと気にしねぇだろ。ボスで頭がいっぱいだろ?」
「そんな事ないわ。いつだってジュリーのこと…、なっ、なんでもない忘れて!」
ツンツンと言われてしまう謂れか、己らしくないと淡い想いを振り払った。
「そこまで言われたら気になるっての。炎真じゃなくて、オレが恋人っつーこと証明して。」
ジュリー自身も驚いてしまうくらいのオコサマ発言。

いつまでたってもシモンファミリーの小さなボスに嫉妬してしまう自分を鼻で笑って、アーデルハイトの隣に並んだ。
「証明なんてうまくできないけど、こんなので良い?」
マフィアの世界しか知らない少女に、恋愛の仕方など分からなった。女の子同士で恋話なんてしたことがなくて、対処の仕方さえ分からない。
難問に返したのは、単純な行為だった。

「オッケー。アーデルってやっぱかんわいいーわ。」
アーデルハイトの震える手がジュリーの骨ばった指に絡みつく。所謂恋人つなぎというもの。重なり合った手を満足げに眺めて頷いた。
ちらり覗くアーデルハイトは、頬を真っ赤に染めて先程のツンツンツン具合が嘘のよう。時折見せる乙女の部分が新鮮で、可愛かった。
「ジュリーは?一途な証拠を見せて。」
「りょーかい。」
思いのほか早い返答と、ジュリーの唇がアーデルの唇に重なった。
「私たち、まだ中学生なのに。やっぱり、ジュリーは破廉恥よ!」
「ちゅーくらい、いいっしょ。」
アーデルハイトの柔らかい唇が忘れられなくて、隙を見てまたちゅっと唇を重ねた。

ちゅうがくせいだけど、もっといろいろしたいんだよ。



2011/11/12