Principe | ナノ




Principe
ジュリアデとディーノは昔からの知り合い。で、小さいころのお話。
で、ボンゴレファミリーとも面識があり。というめちゃくちゃな設定。




「王子様みたいな人、ね。」
童話の世界から飛び出してきたような人物、キャバッローネのボスを見てアーデルハイトは小さく呟いた。
幼いころの童話に出てきた王子様にそっくりなのだと、彼女は楽しげに言う。


どういう訳か、その話を聞くたびにジュリーは胸が苦しくなっていた。けれど、本人はこの感情の意味を分からないでいた。

「おう!アーデルハイトも美人になったなー。将来が楽しみだ。」
「ありがとう。その、お世辞でも嬉しいわ。」
恥ずかしい台詞をさらりというとことも、アーデルハイトがその気障な言葉にときめいているのも、双方ともが面白くなかった。
「ディーノも、すごく素敵よ。」
あのお堅いアーデルハイトが一生懸命声を震わせて紡いでいる。
たかだが、10歳そこそこの少女なのだが心がしっかり女になっている。そうさせているのがジュリー自身でないのが彼自身、嘆かわしくも有った。


ずっと昔からアーデルハイトの色んな表情、弱いところだって知っているのは自分だと思っていただけにに、未だかつてみたことのないあんな乙女な表情を見せつけられて胸糞悪くも感じていた。
そして、あのへなちょこに会う度にアーデルハイトは可愛らしい格好をして、長い黒髪を横に纏めて可愛らしい薄桃色のシュシュをしていた。
ジュリーにとっては、まあ何とも面白くない。
「そういうのは、アーデルには似合わない。」
自分といる時よりも、ずっと可愛らしくいようとするアーデルハイトが許せなくてそっぽ向いて呟く。
「……、そんなこと言わなくてもいいじゃない。」
寂しそうな表情をして、遠慮がちにそのシュシュを外そうとしたがディーノによって止められた。
「ジュリーは女を見る目がねぇなぁ。似合ってて可愛いぞ!」
ジュリーが想っていても口に出来ないでいた台詞をさらりと言ってのけた。
アーデルハイトの沈んだ表情は一気に晴れて優しい言葉に、照れくさそうに笑っている。

どうにもこうにも気に入らないことばかりだった。
もう、我慢ならんとその王子様とやらに向かっていった。
「お前みたいなへなちょこは大嫌いだ。」
金色の髪を揺らすディーノに向かって飛び切りの笑顔を向けて、毒を吐く。
アーデルハイトを自分から奪っていくなという、心の抵抗をこめた。

突然の嫌悪の言葉に目を丸めたディーノはすかさずこう返した。

「気が合うな!オレもお前みたいな素直じゃねーヤツは気にいらない。」
怒りの矛先がどこから来るのか、その正体が分かったディーノは、一枚上手の穏やかでは有るが的を得た言葉でジュリーに切り込んだ。
「さっさと、イタリアに帰れ。」
ジュリーの幼さも、小さな想いにも気付いているディーノの表情はえらく優しかった。



ディーノが帰った後も、彼女は『王子様』に夢中のようだった。
「やっと帰ったな。あのへなちょこ。」
「そんな風に言わなくていいじゃない。素敵な人よ。」
「どこが?アーデルはあんなんがいいのかよ。」
「?ええ、だって、仲間思いの素敵なボスだもの。」
恋とは違う、憧れのような感情を抱いていた。
「…、好きなのか。」
恐る恐る窺うように問いかけた。
「好きよ。」
深い意味はなく、純粋に尊敬できる男性としての好意であった。しかし、未だ幼い心のジュリーにとっては許せない事実。
「オレちん、ぜってェ、好きになれねーな。」
ふいと顔を背けて横目でちらりとアーデルハイトを見れば、しゅんっと寂しそうな表情をしていた。
その顔がやけに心に残る。
オレの前でそんな顔をするなよ。さっきはあんなに楽しそうに笑っていたのに。

「ジュリーもきっと好きになるわ。」
「ならねーよ。大嫌いだ。」
だって、きみが好きだというから。

イタリアの王子様は永遠にライバル。

分かった。あいつが来ただけでこんなにも心が揺れるのは…オレはアーデルの事が好きなんだ。気付かされた、大嫌いなあいつに。


優しい王子様にはなれないけれど、いつだって想っているのだと。





2011/11/06