アイアム、クレイジィA | ナノ




アイアム、クレイジィ

「…、お前に飽きたからじゃねぇの?」

炎真は見違える程に男らしくなって、アーデルハイトの思うシモンのボスへと近づきつつもあった。
『自分はボスの右腕として』在るべき姿を追求して、炎真に付きっ切りとなっていた。
炎真との信頼関係は強く深くなるにつれて、ジュリーが離れていくのを感じた。
今は、隣に優しい笑顔もぬくもりさえも感じない。
今日も、アーデルハイトはジュリーの影だけを追っていた。



空っぽのジュリーの部屋に就寝前は必ず通う。もしかしたら、彼が帰宅しているかもしれないと淡い期待を抱いてドアノブを空ける、が、広がるのは人の気配ではなくてがらんとした寂しい闇だけだった。
本日も、と盛大なため息をついて自室へと戻った。
携帯を取り出して、ジュリーの電話番号をぼんやりと眺めた。何度電話をかけても電話はかかってこない。
今日の見知らぬ女のところなのだろうか胸がざわつく。学校ですれ違っても目も合わせてくれなくなった彼の心はどうしてしまったのだろうか。
自分が何かしてしまったのだろうか。
中学生のころは、毎日一緒にいたのに。
いつも隣で支えてくれたのに。
考えても考えても彼の心は見えなくて、冷たいベッドに背を預けると額に手の甲を置いて色を持たない天井を見上げる。
どこで、何を、考えだしたらきりがなくて、挙句の果てには悪い方悪い方へと考えてしまい、どうしようもなく寂しくて胸が締め付けられてうっすらと涙を浮かべた。

声を殺して、寂しい夜を泣き明かした。目覚めた翌朝は頭痛と、少し腫れた瞳。鏡で見るその表情は、心まで移しているようで醜く感じた。

「アーデル!アーデル、起きてる?」
明るい声音が窓を外から聞こえてくると、弱音を隠して凛とした声で答えた。
「なに?」
「ジュリーが帰ってきたよ。」
「!!本当に?」
ドアを開けた先に見えた炎真の優しい笑顔が眩しく感じて目を細めた。
ジュリーの帰宅、嬉しい反面、胸中は至極複雑。急いで彼の部屋に向かって、ドアノブに手をかけるが寝ているのだろうか反応はない。

言いたいことも、聞きたいことも、聞いてほしいことも様々有る。無理に彼を叩き起こすのはやめてその場を引き返した。


意を決して向かったのは、陽も落ちかけた夕刻。
「ジュリー?」
また、反応がない。
「いたら返事して、声が聴きたい。」
それでも、掠れるその声で続けた。

「なんだ?用件だけ言ってくれ。」
向かってくる足音と、扉の開く音に心音は高鳴る。現れたジュリーをゆっくりと見上げた。

「いつも、いつもいつも、どこで何してるの?」
どうして、傍にいてくれないの?どうして、私を避けるの?どうして、そんなに寂しそうな目をするの?
喉まで出かかった言葉を必死に呑み込む。
「勘違いしてねぇか?オレの女でもねーのに。」
確かにその通り、仲間で在っても、幼馴染で在っても、恋人同士ではない。恋人同士にはなれないのだと言われた気がして俯いた。



「お前がヤラせてくれるんなら、朝までいてもいーけどォ。どォーする?」
「………!!」
おどけた言葉に軽蔑なんてものは不思議と浮かばなかった。ただ、それでもいいと思った。

終始身体に突き刺さる冷たい視線を浴びても、嫌悪もなければ憎悪もない。
ただただ、傍にいてほしいと思った。

どんな形でもいいから、すぐ隣に置いてほしいと思った。


私の心は、正常ではないのだろうか。


声にならなくて手を伸ばすと彼の姿は既になかった。



2011/11/01