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「来てやったぞ、コラァ!」
エミナが気分転換に訪れるテラスに威勢よくやってきたのはナインだった。
声の勢いだけは良くても、向き合って笑みを向けると何とも少年らしい反応をするのだ。
彼がどんな反応をするのか理解できたエミナは、振り返る前に肩を揺らして笑う。呼吸を整えて、後ろを振り返るとにっこりと笑みを作った。
「うーん、待ってたわけじゃないんだけどなぁ。」
予想以上の笑顔が向けられると、ナインは先程の勢いはどこへいったのやら一歩後退してたじろいた。その反応が、楽しくてエミナはじりじりと近づいていく。

「……、ち、ちかすぎんぜ。コラ。」
顔を背けて、眉間に皺を寄せるその姿を見てエミナはまた笑う。母性本能をくすぐられるというか、からかいたくなるというか、兎に角可愛いのだ。
紅い魔人と謳われる彼にも、こんな一面があるのだとわかるとその人間らしさに親近感も沸いた。

零組特攻隊長の肩書はどこへやら。
恋する女性との距離が近いだけで顔は真っ赤。エースに見られたら、鼻で笑われるだろう。クイーンに見られたら、似合わないと悪気なく呟かれて笑われるだろう。

「ごめんね。反応が可愛くて、つい、ね。もしかして、ワタシに逢いに来てくれた……?」
これ以上の痴態を晒す訳にはいかずに、ナインはくるりと背を向けた。
会いに来たのにこのざまはなんだ、コラァ!と自分を罵った。背にかかる独特の甘ったるくて心地いいやさしい声に耳を傾ける。
さりげなく、且つ、大胆にきたつもりなのにエミナにはバレバレらしいことが分かればチッと舌打ちをした。

「べ、別に、そうじゃねぇけど。」
硬派な零組特攻隊長が女に現を抜かしているなんて!現実はそうだけれども、首を横に振って強めに否定した。
「そう、ざーんねん。」
素直じゃないナインの言葉に口端を緩めると少し離れたテラスで、青空を見上げて頬にかかる風に目を細める。

繋がらない会話がもどかしくなって地団駄を踏んでエミナの元へ近づいた。
「これ、渡しに来たんだ。受け取れ!」
「なあに?」
横目でナインを見つめて、流れる髪を押された。突然、掌に当たるのは温もりと、覗き込んでみるとひんやりとした冷たい鍵。



「スペアキー?」
ナインの部屋の鍵だろうと咄嗟に理解した。
きっと、そうだろうと思って受け取って眺めた。
ナインは違うと首を振った。こんな大事なものを自分に?と、すぐ返すつもりだったが、金髪の青年は既に大魔法陣の中。
ひらひらと片手を振りながら、エミナを見ていた。

「作戦開始…時間だから行く。アンタが来てくれねぇと、部屋に入れねぇから……、ちゃんとこいよコラァ!」
びしっと人差し指を刺した青年は、大魔法陣の中に消えて行った。残ったのは、唖然としたエミナだけ。
「やられちゃった。ズルいなァ。」
これがないとナインは部屋に戻れない。
ということは、自分はいかなければならない。
少年の意外な策略にはまって、朱雀クリスタルのレプリカのついた鍵を握りしめた。

「仕方ないなぁ。」
エミナの表情は、どこかたのしげだった。

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2011/11/25

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