だいすきなんだ。(ジュリアデ) | ナノ

だいすきなんだ。(ジュリアデ)


問一、この主人公の心情を述べよ。
解答欄
この主人公のことを小さい時から知らない僕には、気持ちなんて分からないです。


読んでも読んでも頭に入らない長ったらしい文章に、炎真ははあと深いため息をついた。


今日の家庭教師は、加藤ジュリー。マンツーマンで教えてくれるアーデルとは違って放任主義。



炎真のベッドに我が物顔で寝転ぶジュリーの表情はいつになく真剣だ。
何を読んでいるのか気になった炎真は少し離れた勉強机から身を乗り出す。
ちらりと見えた表紙は、金髪のお姉さんが全裸でウインク。刺激が強すぎると判断した炎真は視線を教科書に戻した。

「で、どこまで出来た?」
ぱらぱらとページを捲る音が室内に響く。
「えっと、ま、まだ一問も…。」
「おいおい、勘弁してくれっての。さっさと終わらせろ!野郎じゃなくて、オレちん女の子と遊びたい!!」
じたばたと足を動かすさまはまるで子供。アーデルがいなくてよかった。内心、そう思った。
「アーデルにまた怒られるよ。」
「そうだな。今日もブン殴られた。」
「ヘンな事したんでしょ?」
「失礼な…。まあ、そんな所だ。」
「……きっびしーもんな、お堅いもんな。足はムチムチ、おっぱいはでっかくてやわらかいのに。」
ストレート過ぎる言葉に、ぺきっと勢いよく折れたのはシャーペンの芯。大事な仲間の少しえっちな姿を想像した己に嫌悪感示して首を嫌々と横に振った。
下世話な話になると目を輝かせるジュリーに炎真は目を逸らしつつ、文章に視線を移す。
「炎真もそう思うだろ。」
「え?ああ、少しだけ怒りっぽいところがあるよね。」
ジュリーのことになるととは言わないでおいた。
「だろ。」
「うん。」
「まー、怒らせるようなことをしてるお前が悪いけどな。」
べったり罪をなすりつけられた炎真は、出したばかりのシャーペンの芯を折った。
「ジュリーだって、僕に負けてないよ。」
「いやいや、オレちんよりお前のことでの方が怒ってるっつーの。」
折ったシャーペンの芯が頬にちくりと当たったジュリーは訝しげな表情で起き上がる。
「どっちも、どっちなのかな?」
くだらぬ勝負を収めたのは炎真だった。
「まあ、そうだろな。」
ジュリーは渋々納得して頷いた。
「僕の場合は怒られるというか、心配させてるね。一人で大丈夫なんだけどな。」
「だったら、アーデルのためにもとっとと一人前のボスになりやがれ。」
「十年後までには、頑張ります。」
炎真らしい解答に不覚にも笑った。
「なげえっての。アーデルが待ちくたびれんだろが。」
「いっ、痛い!!」
バシっと背中を思い切り叩かれて、喝を入れられた。厳しい言葉で炎真を叱るアーデルの優しい目と一緒だ。
「男だったら、これくらい耐えろ。」
痛がる炎真に知らん顔して、ベッドに深々と寝転んで、卑猥な雑誌を広げて括目。
「ねぇ、ジュリーってアーデルのこと好きだよね?」
先程からやられっつぱなしなので、大きな仕返しを。
ページを捲る音が止まった。
「好きじゃねぇ。」
狼狽えるわけでもなくて、聞こえた声は冷静だ。
「うそつき。」
ふいと顔を背けるジュリーに即座に声を上げる。珍しく反抗的な炎真を一瞥すると視線をぐるりと巡らせた。
「好きじゃねぇんだよ。大好きなんだ。」
分かってねぇなと付け足し、片眉を上げて飄々と言い切ったジュリーは、ページを捲る。

「そっか。だいすきなんだ。」

この台詞を聞いたらどうするのだろうか、頬を染めたまま彼女らしく悪態をつくのだろうか、それとも。
答えを巡らせて、一向に進まない宿題と、二人の想いに少しだけ笑った。
幼いころから二人を知っている炎真にとって、その解答は見知らぬ国語の主人公の心情を述べるよりも遥かに簡単なものだった。





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