どきどきしちゃうの!(エイト×シンク) | ナノ




どきどきしちゃうの!(エイト×シンク)


規則正しいエイトは、目覚めも早い。だけれども、今朝は違った。
春眠暁を覚えずとはまさにこのことで、幾分暖かくて柔らかく感じるベッドの中で心地いい眠りについていた。
「寝顔、かわいーねぇ」
窓から零れる陽射しが暖かくて、夢から覚めるまであと一歩という所まで来ていた。
柔らかい?そして、どこからか声がする。覚醒に近い少年は、疑問符を浮かべた。

「おい、シンク……それは、オレの……」
薄い夢見心地の中で、金髪のゆるふわ少女とお菓子を取り合う夢を見ていた。
寝ぼけてぽつりと呟く。
「うにゃー、だめー、シンクちゃんのでーす」
夢の中で少女が笑っているとばかり思っていた。が、高い声がやけに耳元でリアルに聞こえる。
そして、もぞもぞと何かがすり寄ってきて、これまた感触もリアルなもの。

「いや、だから、オレのだって……」
取られてはならないと、エイトは目を瞑ったまま首を横に振った。
「エイトの頑固者―。シンクちゃんのだってば」
柔らかくて、暖かくて、甘ったるいけれども大好きなシャンプーのニオイ。
少年は、目を見開いて目の前の少女をじっと見つめた。寝起きのその頭では、この状況に追いつけない。
すうっと息を吸いこんで、自分のではなくてシンクの頬を摘まんだ。
「ひゃあっ。おはよーでーす。エイト、いたいよ〜」
「おはよ」
律儀に返すが、首を横に振った。そうじゃなくて、どういう事なんだこの状況は!と。
エイトは、目をまん丸くして起き上がると少女から僅かに離れた。
「おはよじゃない。シンク、何をしている」
「んっ?夜這いじゃないから、朝這いかな」
スキンシップの大好きなシンクは、起き上がって迷うことなくエイトの胸板に擦りよって甘えた。

「意味が分からない。お、おい、あんまり引っ付くな」
シンクの相変わらずな返答と、どうしてこうなったと言いたくなるような不思議な状況にエイトは眉を寄せた。
「なんでぇ?ドキドキしちゃう?」
「ち、違う……!みんなが見たら、ヘンに思うだろっ」
「だいじょーぶ、わたしはきにしませんー」
皆が見たらというよりも、エイトの若い性が弾けそうで如何せん困っていた。
好きな女の子から朝から抱きつかれて、平常心を保てる男の子なんて早々いない。
鍛錬をしているエイトだったが、性欲を抑える鍛錬は全くと言っていいほどに出来ていない。

「そういう問題じゃない。」
「わかったぁ!ドキドキじゃなくて、ムラムラなんだね〜。不覚でしたぁ!」
けろっとした表情で恥ずかしげもなく言われると、エイトの口端がぎこちなく上がる。
分かっているのならば、恥じらいを持って離れてほしい所。
「分かってるなら、早く離れてくれ」
「って言う割には、エイトがぎゅーってしてくるから離れられませーん」
言葉とは裏腹に、シンクの柔らかい身体を離したくないと本能からかエイトの腕は彼女の細い腰に回されていた。
予想以上に柔らかくて、気持ちがいい。

「エーイト、ホントに離れた方がいい?」
「……もう少しこのままがいい」
「ふふっ、ドキドキしてるねぇ。ムラムラもしちゃってるのかな?」
ぴったり密着すると、エイトの速まる鼓動が伝わってきて楽しげに笑う。上目で見つめる彼は、どこか不服そうだった。
「……からかうな。今日は、ドキドキさせてやるから」
「いいよぉ。楽しみ〜なんだけど、寝癖つけて、そういうこと言ってるエイトが可愛いかなぁ」
親指でシンクの唇をなぞりつつ顔を近づけるエイトに、一瞬目を見開いたが寝起きであるせいかエイトの髪がぴょんっと無造作に跳ね上がっている姿を見て小さく笑った。
「!!!いつか、ドキドキさせてやるからな」
格好悪い所を見せてしまったとエイトは眉根を寄せる。そして、僅かに頬を赤らめた。
慌てて寝癖を直すエイトに、シンクはまた声を上げて笑った。
「まってまーす」
緩い返事とシンクの笑顔に不覚にもエイトの心音は高鳴った。
シンクの心を揺さぶるには、もう少しだけかかりそうだとエイトはため息をついた。




おまけ

「ねー、寝言でわたしの名前出してくれたの嬉しかったよ。他の子の名前だったら、シンクちゃんのメイスでエイトの事壊しちゃってたかも〜」
「……(シンクの夢見てて良かった)」

2012/05/15