ドルチェ(エース×デュース) | ナノ




ドルチェ(エース×デュース)

「そうなんですよ。こんな事が有って……」
講義も終わって、二人が在るのは裏庭のベンチ。
デートというには、未だ早い気もするが、何をするわけでもなく穏やかな時を二人で過ごすことが日課となっていた。
他愛もない会話を交わすこの時が、互いにとって癒しの時間だった。
ちなみに、距離は数センチほどある。これでも、当初よりは縮まった方なのだ。
以前ならば、エースが一歩近づくと、デュースが一歩と離れて行ってしまう。気のせいかと思い、再度試みるも矢張り結果は変わらなかった。
避けられているのか、はたまた、二人で過ごすこの時が嫌なのかとエースが問えば、デュースは大げさ過ぎるほどに首を横に振った。
ただ単に、照れくさいのだとか細く消え入る声で答えてくれた。
そこがまたデュースらしくて、エースの胸はきゅんっと締め付けられた。
大事に、大事に、二人の時間を育んでいこう。決して、デュースを怖がらせてはいけないと、エースは心に誓った。
その甲斐あってか、二人の距離も今では膝同士が当たる位に近い。



「エースさん、聞いてますか?」
心地のいい声音に聞き入って相槌を打つのを忘れていた。心は此処に在るのか不安になったデュースは眉尻を下げて顔を覗き込む。
その仕草に愛でるべき存在なのだと、はっとなったエースは目を見開いて口端を僅かに吊り上げた。
「ごめん、しっかり聞いているから……。続きをどうぞ」
一呼吸おいて紡ぎ始めたデュースはその表情に徐々に陰りを映していく。
「はい、あのですね。わたし、その……キングさんとクイーンさんを見ることが出来なくて……。どうしたらいいのでしょうか」
胸元でぎゅうっと両手を合わせて、困った顔で唇を震わせるデュースの感情が流れ込んできたエースは、彼女と全く同じ顔をしていた。
本気で悩んで苦しんでいるであろうことは窺える。だけれども、其処までに至る根本的な原因までは全く汲み取れなかった。
キングとクイーンと、何か揉め事でも起こしたのだろうか。
いや、しかし。それは三人の性格からして考えられない。

「何か、有ったのか?」
「は、はい。あのですね。その……えっと、二人に言わないでくださいね。絶対ですよ?」
「分かった。言わない」
強く念を押されたエースは、眉根を寄せて言葉を待った。
「あの、……、キングさんとクイーンさんが、放課後ですね……。あの、その…」
余程言いづらいのか、デュースはしどろもどろでなかなか続きを言おうとはしない。
大きく深呼吸をしたかと思えば、顔を真っ赤にして泣きそうにしていた。
「なんだ、まさかあの二人が大ゲンカでもしてたのか?」
痺れを切らしたエースもまた、明後日の方向の問いかけをする。ふるふるとデュースは首を振って、その小さな唇を開いた。

「あのですね、お二人が、く、くちびるとくちびるを重ねていましてですね」
最後まで言い切ると、デュースは頬が熱くなるのを感じて両手で自分のそこを慰める様に押した。
遠まわしではあるが、エースは真相を漸く掴むと納得したように頷いた。

「そうか、要するにあの二人がキスをしている所を見たという事か。そんなに気にしなくてもいいんじゃないか?」
「きっッ!!!破廉恥です、エースさん!!!」
「破廉恥って、キスくらいで……」
純粋過ぎるデュースにとって、生々しく聞こえるその言葉。
勢い余って、両手でエースの唇を塞いだ。

「……っ」
「あ、ごめんなさい」
掌にエースの吐息がかかると慌てて手を離した。そして、一人分程の距離を空ける。
「デュース。少し落ち着いて」
困惑の色を映すデュースの瞳を見て、言う。
「はい」
数度深呼吸を繰り返すデュース。落ち着きを取り戻したデュースはぽつりぽつりと話した。



放課後、忘れ物をしたデュースは寮へと戻ったものの引き返すことにした。
そこで、教室に残るキングとクイーンを目撃。普段ならば気兼ねなく入れるのだが、どうやらその日は違ったらしい。
デュース曰く、大人の雰囲気を醸し出す二人の邪魔をしてはいけないような気がして、扉の前でウロウロしていると二人がキスを始めて――。
驚いて声を上げてしまったら、二人が気付いてしまったとのこと。
盗み見してしまったようで申し訳ないと、良心が痛んでしまった、加えて二人とどう接していいか分からずに困惑していて今に至るとのこと。


「二人とも普段通りにしているなら、デュースだって以前の様に接したら良いと、僕は思うけど」
「……、二人とも怒ってないかなって」
「それは無いだろ。デュースに避けられている方が、キツいと思うけどな」
「そう、ですね。いつもみたいに……ですね」
デュースはその言葉を噛み締めると、自分に言い聞かせた。
「からかってやったらどうだ?キスしてたよなって」
突然の言葉にデュースは口をぱくぱくとさせて否定した。
「そ、そんなシンクさんみたいなこと出来ないです!」
「確かに、シンクならからかうんだろうな。兎に角、あんまり気にしないで良い。二人とも悪いことをしていた訳じゃないんだから」
シンクを想像して二人で笑っていたが、次いで出たエースの言葉にデュースは黙って続きを待った。

「……付き合っているから、そういうことをするんだろう?僕も、二人の気持ちは分かるよ」
言葉を選びつつも、エースははっきりと本音を伝えた。
「エースさんも、き、…………すとか、したいですか?」
震える声で俯くデュースの声を聞くとエースは、一旦視線を外した。
「ああ。デュースと、したい」
直球で投げかけてしまうと、嫌われるのではないかと不安にもなった。恐る恐る視線を戻すとデュースは俯いたまま膝上で拳を作っていた。
刺激が強すぎたか、と、エースは唇を噛んだ。

「わ、わたしも、……。」
返答は、語気やら雰囲気から同意に似通ったものだと思った。
不安は薄まって、安堵した。
意外過ぎるデュースの言葉に、流れに任せてとエースの男の部分が出張ってきた。

「いいのか?」
珍しく、エースの心音が高鳴る。デュースの朱いままの頬に手を伸ばした。

「……でもでも、今日はだめです!!!破廉恥すぎます。エースさん、えっちです」
が、思い切り避けられた。可愛らしい声でぐさりと心臓に突き刺さる言葉に肩落とした。
「ごめん」
ショックを受けるエースを見ていると、言い過ぎたといてもたってもいられなくなったデュースは膝上のエースの手に自分のそれを重ねた。
「ごめんなさい。そんな顔しないで。エースさんが、えっちでもわたしはすきですから」
キスは言えないのに、すきはさらりとだが心を込めて言ってくれるものだとエースは感心した。
彼女のこういうところが好きだとしみじみと思う。

隙ありと言わんばかりに、無防備に近づいてきたデュースの頬にちゅと唇を押し付けた。
「あっ……エースさん」
「くちびるには今度するから」
宣言されて、デュースも、もうどうしていいか分からずに固まっていた。

頬に口づけただけで頬を真っ赤にするデュースは、これ以上の事をしたらどうなってしまうのだろうか。

大人の雰囲気には程遠いが、甘ったるいこの雰囲気をエースはとても気に入っていた。






2012/05/08