ただいま、おかえり。(ジャック×セブン) | ナノ




ただいま、おかえり。(ジャック×セブン)

隣にいない日々がこんなに長く感じるなんて、セブンには初めてだった。
こんなにも、彼と過ごす日々が日常となっているだなんて。
染み込む存在が、怖くなることも有った。
しかし、会いたいという気持ちの方が今は上回っている。
ジャックが帰ってきたら、誰よりも先に、一番にお帰りと言おう。
あの明るい笑顔へ。


無事任務完了とクラサメから一言だけ連絡があった。



「セーブーン、聞いてんの?デュースたち、そろそろ帰ってくる時間じゃない?」
心此処にあらずの状態で、両腕を組んで裏庭に立つセブンに見兼ねたサイスが顔を覗き込んで声をかけた。
「んっ?あ、ああ。もう、そんな時間か。」
するりと抜けていくサイスの声を無意識に追って我に返ったセブンは、腕時計を一瞥して帰投時刻目前ということを知る。
「ま、アイツらだったらよゆーな顔して帰ってくるって。」
セブンの背中を一度叩いて、頭の後ろで両腕を組んで正面ゲートへと急いだ。
サイスより遅れて正面ゲートに入った頃には、デュ―ス、ジャック、ケイトが既に院内に入っていた。
三人とも無事で、どことなく疲れているということは感じるが表情は明るい。
サイスは三人に声をかけるわけでもなく、顔を見るとそそくさとその場から去っていく。
サイスらしいとセブンは笑った。
三人の顔を見て、漸くセブンも胸を撫で下ろした。デュースと、ケイトと目が合えば労りの声をかける。
和やかに話していた最中に、ふと、ジャックと目が合った。
けれども、即座に逸らしてみていない振りをする。本当は、一番に話したいのに何と声をかけていいのか、たった一週間が酷く長く思えてぎこちなく感じた。
どう接していいかいまいち分からない。
女子寮へと戻る二人の背を見送っていると、いつのまにかジャックと二人きり。


「……セーブンっ。僕のこと忘れてない?」
先に声をかけてきたのは、ジャックだった。穏やかな声音に反応して、視線だけを向ける。
「忘れていない。」
言いたい言葉を飲み込んで、何故だか素っ気なく接してしまう。靡く銀髪を揺らして身体ごと背けた。
そんな事では微動だにしないジャックはセブンを追って顔を覗き込む。口端が緩んでいて、ジャックの存在を確認する。

「ほんと〜?浮気してちゃいやだよ〜。」
「するわけないだろ。私は、毎日ジャックの事ばかり……。」
ジャックのペースに呑みこまれそうだった。
さらりとした誘導尋問のような言葉に、真面目な顔をして返してしまいそうになる。
自然と出てきた言葉にセブン自身は驚いて、心情を吐露する前に唇を噛んで塞いだ。

「なになに、続きが気になるんですけど〜。」
「何でもない。元気そうでよかった、ジャック。」
目尻が上がって本気で楽しそう。遊ばれるとわかれば、早いところ話を切り上げようと突っぱねた。
おかえり、こんなにも簡単な言葉が出てこない。

「まーね。僕らだったらよゆーだって。」
一番言いたい言葉を避けて、腕を組むと何か言いたげに間を置いた。
「帰ってきたら、あの言葉が欲しいんだよね〜。もらえないと戻ってきた気がしないというか。」
素直になれないセブンを見抜いているのかジャックは、愉しげに笑ってセブンを促す。

「アンタが笑顔で戻ってきてくれて良かった。」
照れくささを押し殺して、掠れた声で言った。
見上げた笑顔に、口元が緩んだセブンは自らの唇に触れた。
「うん。ただいま。」
痺れを切らしたジャックは深呼吸の後に続ける。
「……。」
「あれ?待ってるんだけどな〜。」
「ジャック、そのおかえり。」
どことなく言いにくそうに視線を巡らせて、ぽつりと呟いた。
欲しい言葉を貰えたジャックは満足げな表情で数度頷いた。

「知ってた?ただいまってセブンに言うまで誰にも言ってないんだよ。取っておいたんだ。」
「どうして?」
「おかえりって好きな女の子にいってほしいから!」
「また恥ずかしいかしいことを。」
「いいじゃん。一週間もセブン絶ちしてたんだからおかしくなりそうだったよ〜。」
柔らかい口調で、激しいことを言ってくれる恋人にはあっと盛大なため息をついた。

「私も、だ。」
しかし、残したのは否定ではなくて同調だった。


「わお。セブンが珍しいこと言った!」
てっきり叱咤されるかと思いきや、意外な言葉に目をまん丸くした。


解いた手が自然とジャックの腕に触れる。戦闘で荒れて硬くなった皮膚を慰める様に手を重ねた。
「おかえり、ジャック。」
二度目は、彼と同じような穏やかな笑顔と共に。





2012/04/24