花とキミ(キング×デュース) | ナノ




花とキミ(キング×デュース)


「わあ、キングさん、見てください。可愛いでしょう?」
膝を曲げて花壇を覗き込むデュースの方が可愛らしい、と、ぼんやり思ったキングだが勿論、声にはしない。
同じ体勢になって、様々に色づく花に視線を向けた。
裏庭には、デュースの作った小さな花壇。冬に植えた種が、一斉に花開く。
小さく色づく花を見つめて、キングは口元を緩めた。

「ああ。小さくても、しっかりと花開くんだな。」
紅い花びらに指先で優しく触れて低く落とす。デュースは、キングのその様を見るのがどういう訳か好きで仕方がなかった。
武骨な男の指先が、愛でる様に撫でる。何故か自分にされているようでくすぐったくて、ずっと見ていたいくらいだった。

「ええ。この子たち、儚げに見えて実はとっても強いんですよ。」
花弁から視線をデュースに移すといつも以上に柔らかい笑顔が印象的。
花を見ているだけで、元気になれる、優しい気持ちになれると言った。
ならば、キングは、愛しそうに花を見つめるデュースを見て暖かな気持ちを貰っていた。

「デュースと一緒だな。」
「そ、そんな。」
困ったように眉を下げて、ふるふると首を振って大げさに否定した。
「儚げだけど、強くて、いつだって前を向いてる。そういうところが似ている。花、みたいな女だな。」
構わずに続くキングの言葉にデュースは顔が熱くなるのを感じて、紅潮を阻止しようと僅かに土の付着した軍手で両手を抑えた。

「やめてください。なんだか、とても、恥ずかしくて……キングさんに言われると恥ずかしくて仕方ないです!」
言葉からも表情からも羞恥が窺える。慌てふためく彼女が愛おしくて、けれどもどこかおかしくて。
笑ってはいけないと思っても、キングは零れる笑みを抑えることが出来ずに顔を背けて肩で笑った。

「な、なんで笑うんですか。もう、いじわる。」
ぎゅうっと軍手を頬に押し付けていたデュースだったが、キングの様子がおかしいと視線だけを向ける。
声を殺して笑っている姿に何かしでかしたのかと焦って、また気恥ずかしさが全身を廻った。
「すまん。そう言うな。悪気はない。」
ころころと変わる表情が愉しくて、見ていて飽きないのだ。

納得できないと眉を寄せたまま、これ以上笑われてはたまらないとデュースは土いじりを再開した。
笑いも収まって落ち着いたキングは、彼女の頬に付着した土に気づくと無意識に指先で払う。先程、花にしたように優しく触れた。
くすぐったさにぴくりと動いて、思いついたようにデュースは声を上げた。


「あっ。キングさんは、土みたいな人です。えと、どっしりと構えていてですね。暖かく見守ってくれているような。」
自分を花に例えてくれた。ならばと言ったものの巧く表現できない。
「喜んでいいのか?」
「勿論です、褒め言葉なんですよ。無いと困る……。わたしにとって、傍にいてくれないと、困るひとです。」
張り上げていた声がか細くなるが一生懸命紡ぐ声を黙って聞いていた。
言い切った後、気恥ずかしさにスカートを掴んで俯いていた。

「デュースには、勝てんな。俺も……。」
まさか、そう返してくれるとは思いもしなかった。
喜びをうまく表現できないキングは、それだけ残した。良い意味で心や表情を揺さぶってくれるのはデュースのみ。


傍にいてくれないと困るのは同じ。
同じ気持ちなのだと伝えたい。けれども、気恥ずかしさから躊躇ってなかなか言葉に出来ない。

風に揺れる花弁に笑われているような気がした。


2012/04/18