朱ノ主張 | ナノ




朱ノ主張(ナイン×エミナ)

肌を重ねた翌朝は、夢の中にいる時間が随分と長い。
ベットサイドに置いた彼のCOMMの着信音で目が覚めた。

当の本人はというとエミナを抱きしめてふにふにの谷間に埋まって寝息を立てている。
窒息しているのではないかと、心配になりつつ鳴りっぱなしのCOMMが気になってナインの身体を優しく揺さぶった。

「後、10分だけ。」
そういって今まで起きた試がない。鳴りつづけるCOMMが心配になって手を伸ばすと、それをナインの耳元に寄せた。
鼓膜に入り込む音が振動して、びくっと肩を震わせる。不快感を露わにした表情でうっすら目を開くとCOMMを手に取って出た。

「おう。おはよ、朝からなんだコラァ!」
ほっと安堵したエミナは邪魔になってはいけないとナインの逞しい腕から逃れようとした。
が、抱きしめられて逃がしてはくれない。
聞き耳を立てるつもりなどないのだが、受話器越しから漏れる声の主は0組のあの女の子。
尚更、居た堪れなくなったエミナは何とか腕から逃れようとベッドでもがいた。

「わーってるっつうんだよ。昼前までにだろ。行くって。」
朝一番に触れたいと思っていたナインは、出て行こうとするエミナの心情がさっぱり分からなくて眉を寄せて彼女を追った。
すべすべの腹回りや乳房に触れて感触を楽しんでいた。

「〜〜〜〜っ!!」
電話口の主に遠慮というか配慮をして漏れそうになる声を両手で塞いでエミナは首を横に振った。
あまり意味の分かっていないナインは、COMMを片手に、空いた手でエミナの肌を愛でる。

こういうところは、不器用な振りをしていて、とても器用なのだ。と、エミナは思った。
なんだか、電話口の女の子が本命彼女で、自分は浮気相手のような錯覚に陥る。


「逃げんなよ。」
「……ッ。」
「あ?別に、なんでもねーって。そんだけなら切るぞ。また後でな。」
用件だけ済ませると電源を切って、COMMをシーツの上に投げ捨てる。

「おはよ。アイツ、毎朝毎朝電話してくるなんて真面目だよな。」
電話が終わると、もがくのを止めてエミナはナインの腕の中でされるがままになった。
「毎朝、なんだ。へぇ……。」
「んな心配しなくても、でかい任務の時は遅刻しねぇっての。」
無邪気な表情で語るナインに、エミナは珍しくそっぽを向いた。
こんなにも心がかき乱されるなんて初めてだ。
「優しい子、なんだよ。」
「あー、まあ、そうかもな。なんだかんだで、良いヤツだからな。」
「……仲良しだもんネ?」
「仲良しっつーか、ガキの頃から知ってっから、腐れ縁つーの?」

楽しげな表情を見て後悔した。
余計な事を言わなければよかった、聞かなければよかった。自分よりも、強く濃い絆で結ばれているであろう彼女に心はざわついて、それが表情にも映し出される。
幾ら愛し合っても、その絆には到底太刀打ち出来ないのは知っている。
真面目では片付けられない、0組のその女子の感情がうっすらとナイン越しに伝わってくる。
願うのは、その子の暖かい想いをナインが知ってしまわない様に。
申し訳なさの中に同居するのは、黒い嫉妬。

「大事にしなきゃだネ。」
真っ赤な嘘で。
その目に映していてほしいのは自分だけ。
わざと見えるところに牽制の痕を残す。
ナインは、もう既に誰かのなのだと報せるために。




2012/04/14