焦 突然現れたナインのやってやったぞ、コラ!という笑顔の意味が理解できなかった。 が、片手にぶらさがる○の多くついた用紙に目を凝らすと、ふと思い出したのだ。 「今回は、頑張ったぞ、コラァ!」 雷入門Tという教科の試験が行われたのはつい先日の事だった。あまりにも試験の結果が悪いナインに、エミナは一つ提案してみた。 『次のテストで、50点取れたらご褒美あげよっかな。ナニかは、まだ秘密だよ。』 同期のクラサメがほとほと頭を悩ませていた。零組らしからぬ点数を取ってくれたと、あの彼が珍しくぼやいていたのだ。 同期のためにここはひとつ、力を貸そうと思ってのこと。 以上の提案で、何かが変わるとは思わなかったが、自分に懐いてくれているナインの勉学へのきっかけにでもなればと思っての事だった。 「この俺が、50点取れたぜ!」 己を指差して、にっと口端を釣り上げて楽しそうに笑う。心底嬉しそうな表情に、エミナの笑顔も穏やかなものとなった。 寝る間も惜しんで、一ヶ月も前から徹夜で勉強。必死に勉強した結果であるから尚のこと嬉しい。 50点というものもいるだろうが、ナインにとっては上出来。 ちなみに、前回の点数28点。赤点以下。 「頑張ったねー。クラサメ君も、泣いて喜んでるよ。」 凄い凄いと、まるで子供をあやすかのごとく頭を撫でた。嬉しいけれども、欲しいのはこれじゃなくて。ナインは抗議の声を上げた。 「ご褒美、くれるっていっただろ。」 すっかり忘れていたエミナは顎下に手を置いて首を傾げた。頑張ったナインに、そのことはすっかり忘れちゃってたよ。と、言える空気ではなかった。 さて、どうしたものか。視線を巡らせつつゆるりと唇を動かした。 「よし、頑張ったから、一つだけ、シてほしいことシてあげる。」 これが一番、ベストな解答だろう。 「言ったな。じゃあ、キスだ。コラァ!」 待ってましたと言わんばかりに口端を釣り上げる。まさかのご要望に笑顔を引き攣らせた。 目を輝かせるナインに、それはダメだとも非常に言いづらく意を決したように頷いた。 「分かったよ。目、瞑ってくれるかな?」 「お、おう!」 まさかのエミナの返答に、ナインもだらしなく表情を緩ませた。両目を固く閉じて、エミナの唇を待った。 怒鳴る心音を押さえつけて、集中。 ちゅっと口端に当たる感触に、目を見開いた。いえ、こうじゃなくてと言いたげな視線を送るがエミナの笑顔には何も言えない。 「唇には、90点、とれたらシてあげる。」 「〜〜〜!!」 眉を顰めて、その点数は無理だ、さあ文句の一つでもと口を開きかけると首に手を回されてまたしても口端への口づけ。 嬉しいけれども、そこではなくて……。 「次も、頑張ってね?」 優しい瞳に、また何も言えなくなって頷いた。 90点とる、その日まで、焦がれて、焦らされるのだ。 - - - - - - - - - - 2011/11/25 |