ラブジャック!!(セブン→ジャック←シンク、ナイン→エミナ←クラサメ) ジャックとセブン。 常に一緒にいるような気がする二人。 盛大な欠伸をするナインは、視界に二人を捕えた。 「ジャック、課題はやってきたか?」 「んー、多分、終わらせたはず。」 「真っ白じゃないか。」 セブンが安堵したのも束の間で、広げられたのは白紙のままのプリント。眉間に指を立てて悩ましげにため息をついた。 「あ、夢の中でやったのかも。」 「もう少しマシな言い訳にしてくれ。隊長が来るまでまだ時間はある。できるとこまでやるぞ。」 「わかったよ〜。隊長ウルサいもんねぇ。」 「おー、ジャックとセブンってよ、なぁんかお似合いだよなー。」 毎朝お決まりのジャックとセブンの光景を微笑ましげに見つめたナインは、からかう訳でもなく見たまんまの思いを二人に向かって投げつけた。 「ラブラブかっぷる通り越して夫婦みたい?なーんちゃって。」 ナインに顔を向けるとジャックは軽く笑って茶化した。ジャックの言葉に否定はしなかったが、セブンは冷静にするものの内心気恥ずかしくて顔を背けた。 「くだらないことを言うな!」 「ああ、そうかもしんねぇ。なあ、シンク。」 まさにそれだと、納得するように何度も頷いた。 同じくナインとは違う想いで二人を見ていたシンクに同意を求めるように呟いたのだが、返ってきたのはドギツイパンチだった。 流石、メイスを操るだけの握力を持つ良いパンチ。 そうじゃなくて、避けなければ――。 「うおっ!」 反射的に歯を食いしばると衝撃が奥歯に浸透して、歯がガタガタと震えた。このまま歯が砕け散ってしまうのではないかと思う程に右頬には重くて深いパンチ。 「あはっ、なぁんか、シンクちゃんおもしろくなぁーい。次そんな事言ったらもっとキツいのお見舞いしちゃうかもぉ〜。」 うっすら開いた目で捕えたシンクは、声は穏やかで柔らかいものの顔は引き攣っていた。 ナインは呪われてしまうのではないかと思う程に恐怖に震えて、そのままぱたりと意識を失った。 運ばれたのは、保健室。 何とか生きていたようでほっと安堵した。目の前にいるのは、寝顔を見つめるエミナ。 「うーん。腫れが引かないねぇ。」 ナインの頬に冷たいタオルを当てて心配そうに見つめる。当の本人はというと、エミナが身を乗り出してくれているおかげでぷるんと豊満な胸が頬に触れていた。 頬の激痛などは気にならずに、重く揺れる乳房を間近で見つめていた。 「俺、暫くこのままがいいぞ、コラァ!」 「あら、それだけお喋りできるなら大丈夫そうね。」 離れていくエミナを残念そうに眉を寄せると、忘れていた頬の痛みがじんわりと蘇る。 「……こんなんで弱る俺じゃねぇぞ。」 好きな人の前で弱い所など見せたくはない。半端なく広がる頬の痛みを押し殺してぎこちなく笑った。 「うん。ナインくんは強い子だよね。シンクちゃんと喧嘩しちゃったの?」 「ちげえよ。シンクのヤツが一方的に……。」 斯々然々でと先程の出来事を荒く話した。ふむふむと頷くエミナは四人の遣り取りを思い浮かべて小さく笑う。 ほんのりとだが伝わるシンクとジャックとセブンの想いが可愛らしくて仕方がなかった。 「女心は複雑なのよ。」 意味深な言葉ではあるが、裏の意味まではナインには理解できない。どうやら、様々な思いが絡み合う難しいことなのだとそう感じると目を閉じた。 「シンクに謝っとくか。」 何か気に障る様な事を思いがけぬところで言ったのだろうと反省すれば、深いため息とともに零した。 「シンクちゃんは謝ってほしいわけじゃないから、今まで通り普通にしてたらいいのよ。」 「……それじゃ俺の気がすまねぇ。だってよ、ジャックとセブンが仲良いっつうのが気に入らねぇんだろ。」 「それは分かってるのね。それいったら、また怒られちゃうから。大人しくしとこうね。」 「わーった。エミナせんせぇがそういうならそうすんぜ。」 「エライエライ。」 素直過ぎるナインに笑って、開け放した窓から舞い込む暖かい春風を頬に感じて目を細めた。 「みんな、可愛いね。ワタシも恋したいなぁ。」 「俺とすりゃいいだろ。」 「キミのそういうところキライじゃないカナ。」 ちょっとだけ良い雰囲気になりつつあるナインとエミナに割って入ってきたのは、あの人だった。 シンクと同じように面白くなさそうな表情を浮かべて、何やらぼそぼそと呟いているかと思えば魔法詠唱の後に二人の間に透明な壁が作られた。 「わっ、クラサメくん。」 突如現れた壁にエミナは小さく声を上げる。つかつかと音を立てて二人に近づくクラサメの言い分は隊長らしからぬものだった。 「すまない。手が滑った。」 「てめ、ぜってぇわざとだろうが、コラァ!」 もう少しでエミナの良い感じになれるかもとナインの淡い期待は綺麗に打ち砕かれて、代わりに覆うは厚い壁。 人生とはうまくいかないモノだ。クラサメを睨みつけると、目があの時のシンクと同じだということに気づいた。 クラサメがエミナへ特別な想いを持っているということは、男の本能の部分で感じ取っていた。 恋のライバルだと思っている。 まあ、それは今は置いといて。 だととすると、シンクはもしかして?難しいことを考えるのはやめよう。ナインの頭はパンクしそうだった。 春の恋は、どこも荒れ模様だ。 2012/04/03 |