きみは女の子(ジャック×セブン) 任務遂行途中に立ち寄ったのは仄暗い洞窟。引き寄せられるかの如く入った其処は、モンスターの巣窟だった。 蹴散らしても、蹴散らしても次々に沸いてくる。前に進めないのだ。 底が見えない感覚に、僅かながらの恐怖さえも抱いた。 「終わりが見えないな。」 後退しても闇、向かう先も確かなものは無い。精神的にも肉体的にも限界を迎えているのは、他の二人も例外では無かった。 「もう少しで外に出られるって。」 荒い息遣いで暗がりの中で目を細めてセブンを探して、言葉少なくもジャックは励ました。 先がないなどということは決してない。光はすぐに見つけられると。 変わらぬ明るい声には妙な説得力があって、安心した。 「うし、もーいっちょ!」 獣を切り裂く振動が全身に伝わって柄の部分を強く握りしめるのと同時に、小刻みに呼吸をする。 前は向いているのだが、如何せん体力がついて行かなくなってきた。 額にはじんわりと汗、襲い掛かる獣たちを薙ぎ倒すことが精一杯で回復することはままならなかった。 明るく感じる声音とは裏腹に、ジャックの疲労感が呼吸音や動きからもセブンには伝わってきた。 「ジャック、待ってろ。すぐに、回復してやるから。」 セブンは自分の事よりも、ジャックの体力の方が気になっていた。互いにギリギリのところをいっているのだが、己よりもと。 回復魔法をかけるにはMPが足りない。ポーションをと、手探っていた隙をつかれた。 獣の唸り声が真上にあるのは気付いたが、頭の中が真っ白になって鞭をうまく動かせなかった。 もうだめだ、と目を瞑ったが、掠めたのは男の唸り声と銃弾の後に続く獣の声だった。 「……あれが、親玉か。ジャック、大丈夫か?」 キングは構えたままの銃で辺りを見渡す。先程の獣を打ち抜いたと同時に、荒々しい気配は消えて、三人の呼吸音だけが響く。 「いったぁーっ!ざっくりやられちゃったよ〜。」 背中を深くえぐられているジャックは、後からじわじわとくる痛みを唇を噛み締めて堪える。 絶対安全と確認が取れるまで、セブンの細い肩を抱きしめたまま離そうとはしなかった。 「ジャック!馬鹿なことをするな!」 眼前に見えたのは、ジャックのひどく苦しそうな顔。本来ならば、守ってくれてありがとうと言うべきところなのだ。そんな事はわかっている。 隙をつかれたのは自分で、怪我をすべきも自分だったはず。 自業自得だと、斬り捨ててくれてよかった。罵ってくれても良かった。 何も、ジャックが怪我をしなくても良かったのに。 セブンは、ふがいない自分を責めていた。 「あれ?怒られちゃったよ。」 肩口に乗るジャックの顎と、おどけた声が耳に届くと彼が生きているのだと確認できる。 セブンは、胸がいっぱいになってジャックの背に手を回して血の溢れる其処に触れた。 「ごめん。けど、お前は馬鹿だ。」 「馬鹿でいいよ。セブンの身体に傷が出来るよりマシ。」 「……、傷なんて!そんな事は当の昔に覚悟できている。」 「女の子の身体が傷つくのは反対。」 「関係ない。女だとか、そんな甘えたことは言ってられない。」 「セブンらしいね。」 「だから、もう、庇うなんてしないでくれ。女扱いもしなくていい。」 震える声で囁いた。寄りかかるジャックの血に濡れた背中を強く抱きしめるのは、精一杯のありがとうの代わり。 「特別扱いはしていーい?」 「……ばか。」 セブンはようやく見つけたポーションを、ジャックの頬に押し付けた。 線上に身を置く己に、性別など関係ないと思っていた。 そんなセブンだが、ジャックの傍にいる時だけは違った。 「ポーション、口移しでお願いしま〜す。」 「自分で飲め!」 今日くらいはほのめかしてみるのも悪くは無いかも。と、思ったのだが前言撤回。 濃い闇は薄まって、光はもうそこまで来ていた。 ―――――― おまけ。 抱き合う二人を見ていると気が抜けたのか、キングはゆるりと腰を地に下して立膝をついた。 心配していたよりもジャックもセブンの大丈夫なようだ。 気を利かせて二人から離れて、薄暗いままの天井を見上げて目を閉じた。 「あてられたか。」 いちゃつく二人を遠くで見て、僅かに口端を上げる。 見つけた光の中に、優しい微笑みをくれる小さな花を重ねた。 2012/04/02 |