てのなかに、貴女(クラサメ×エミナ) 「クラサメくーん。お仕事順調ですか?」 エミナの机を我が物顔で陣取って、0組の可愛い教え子達のテストの採点に勤しむクラサメの背に、豊満な乳房を押し付ける様に抱きついた。 「もう少しで終わる。」 甘い声音の女とは対照的に、男は淡白に返した。 まずまずのエイトの解答用紙を端において、続いて採点するのは問題児。 ナインの解答に、呆れた深く重いため息を残して、キュッキュッと小気味いい音を立てて赤ペンで大きなバツをつける。 「分かった。それまで待ってる。終わったら、お相手してネ?」 中盤まで採点終えたと所で、分かっていたが肩を落とす。 これほどまでに、授業を聞いてくれていないとは。早急に措置をと考えていると、背に押し付けられるのは柔らかな温もり。 真面目にナインの今後を考えなければならないのに、気になって仕方がない。 胸が当たって嬉しいような、下半身に悪いような。複雑な胸中を知ってか知らずか、エミナはぴとっと密着してクラサメから離れようとはしなかった。 幾ら、仏頂面でクールなクラサメだって大事な恋人に抱きつかれて平気なわけがない。 甘い吐息にぎこちない瞬きをして、採点を再開した。 「かわいい解答。しらねぇなんて書いてあるよ。」 魔導院ペリティシリウムの創設は?という初歩的な問題に対して、知らねぇと乱雑に書きなぐられた解答を指差した。 「知らないで済ませるとは、いい度胸だ。キツくいっておかないとな。」 やれやれと肩を落とすクラサメに、エミナは普段の二人のやりとりが思い浮かんで声を上げて笑った。 密着することに飽きたのか、一度体を離す。そして、また引っ付く。巧い具合に翻弄していた。 クラサメはそれが気になって気になって仕方なかった。 「エミナ、……。」 「なぁに?」 「引っつきすぎだ。」 「ごめんネ?イヤだった?」 嫌というか、過度に期待してしまうというか。 口下手なクラサメは考えた。本音を言うべきか、ぼんやりと流すべきなのか。 「嫌悪は無い。ただ、背中が気になる。」 結果、素直にいう事にした。 「……ドキドキしてる?」 笑いを堪えて問いかける。背中越しに、ほんのりからかわれているということに気づいた。 顔を肩口に乗せて問いかけるエミナの吐息がクラサメの頬を掠めた。 「そうかもしれんな。」 迷いなく紡いだ言葉にクラサメ自身も少しだけ驚いた。あまり想いを口にしてくれないクラサメの意外な言葉に喜びのあまり、エミナは彼の首筋に頬を預けて擦り付けた。 「やだやだ、嬉しい。クラサメくんも、ちゃんと男だネ。」 どういう意味だ。だから、背中に胸が当たっていると言っているだろう。 「男でないなら、何だと思っていたんだ。」 「なんだろ。んー、表現しづらいナ。そういうのナイって思ってたの。」 人差し指を口元に添えて、うーんと唸り声を上げるエミナに片眉を上げた。 納得いかないと振り返って見れば、いつの間にやら胸元はだけさせた大きめの白シャツをワンピース代わりに着ている。 仮にも深夜近くに『男』というというのに、危機感はまるで無し。 恋人同士だから、構える必要はないのだが。けれども、これは。 襲ってくれと言わんばかりのその格好に鋭い視線を向けた。 「襲われたいのか?」 なんて、問いかけも軽く交わすことなんて承知の上。 「クラサメくんなら大丈夫だモーン。」 ほら、矢張り。ナインの解答よりも、訳の分からぬ返答をしてくれる。 手を出せないと思っている。 今日ばかりは、大人しく引き下がってはやらない。 丁度採点も終わった。 首に纏わりついたままのエミナの手首を掴んで振り返る。 「私が何もしない、出来ないとでもいうのか?その自信、覆してやる。」 唐突だった。 鋭い視線が、じっとりと絡み付けばエミナの背は何とも言い難い恐怖に震えた。 このような反応をするのが、初めてだからだ。 「あっ……、やだ。だめぇ。」 笑みは打ち砕かれて、手を引っ込めて視線を逸らした。 どことなく危機を感じるその表情は、幼くも感じる。 「そんな顔もするんだな。もっと見たい。」 「……いや、いじわるはいやよ。」 嫌だと言われると、それをしたくなるのが人の性。 先程までの勢いはどうした。しかし、手折るのはまだ早い。 「どうしようか。」 腕に収めるまで、もう少し。 2012/03/30 |