OPVD（クラサメ×エミナ）

クラサメにとって、2月14日程、憂欝な日は無かった。女子生徒が大量に押し寄せて、チョコを押し付けて任務完了と言わんばかりに帰っていくのだ。
凄まじい形相の女子たちが、士官の制服至ることろに押し込んでくる。何故か、防御できないのだ。
それほど、バレンタインの女子生徒の心意気は熱い。
『手作りなんですッ！！！』
『丹精込めて作ったチョコなのですッ！！！』

と言われてしまえば、氷剣の死神といえども、人の子であるがゆえに断れずに受け入れてしまう。

朝昼晩、毎日チョコだと思うと憂欝である。が、好意を踏みにじるわけにはいかないと全て自分の胃に収めるつもりでいるクラサメは、大きなため息をついた。

両腕を組んで仁王立ちの先には、大量のチョコ、チョコ、チョコ。

「さっすが、クラサメくん。いっぱいもらったね～。」
眉間に皺を寄せているクラサメの隣にひょっこりやってきたのはエミナだった。
豪華な包みを手にとって様々な角度から眺めて楽しんだ。
「エミナか、毎年の事だ。」
「わあ、発言がモテモテ。妬けちゃいますね。あら、かわいいチョコ。」
凝った箱の中から、可愛らしい包みを見つけるとひょいと取り上げる。そこには、『タイチョ―へ。味わって食べてね。お返し楽しみにしてまーす。シンクちゃんより』と小さなメッセージカード付のチョコレートが。
クラサメから許可を貰って、包みを開けてみればそれは何とも可愛らしいおっぱいちょこ。
「やだ、かわいい！クラサメくんの事わかってる！」
周りはホワイトチョコで固められていて、先端部分がほんのりピンクでぷくっと浮き上がっていてまるで、女性の乳房のよう。同じ形の小さなチョコが可愛らしく二つ入っている。
エミナは、声を出すのを堪えて肩を揺らして笑った。
「………どういう意味だ。」
まるで、自分がおっぱい好きですと言われているような気がする。確認のため、訝しげに問いかけた。

「え？好きでしょう。嘘はダメだよ。」
ナニがとは言わずに、にっこり笑ってつんつんとそのチョコの先端を指差した。
「甘いものは得意ではない。」
「あ～、嘘はダメって言ったのに。」
強引に鉄のマスクを外されて、わざとらしく頬を膨らませるエミナに、むにっと頬を摘ままれた。納得いかないクラサメの眉は寄ったままで、難しい顔は更に難くなっていく。
「ワタシの甘いかなぁ？」
様々な意味を含めているであろう言葉にピクリと片眉を上げた。
エミナには全てを見せているのだと思えば、反論する余地を見いだせない。
「……候補生時代から、私をからかう事が楽しくて楽しくて仕方がないようだな。」
精一杯の足掻きなのか、楽しくてを幾分強調してみた。

「んー、どうだろ。あっ、ちなみに今は、からかってないですよー。クラサメくん、おっぱい好きだモン。」
「からかうな。」
「からかってないってば！おっぱい好きクン。」
「もういい。」

何を言っても無駄だということがここにきて漸く分かったのか、はあっと深いため息をついてエミナから視線を逸らした。
言い合いで勝てたことがないので、これ以上揶揄されないようにとさっくりと切り捨てた。

「怒っちゃやぁよ。」
不貞腐れたであろうクラサメを見ると、ふっと穏やかに笑ってクラサメの首筋に腕を回す。包み紙からホワイトチョコを取り出して舌の上に乗せた。
咥内の程よい体温で溶けていくのが分かる。じんわりとホワイトチョコが舌の上に広がっていく。
「クラサメくんも…っ。」
クラサメの顎を緩く掴むとちゅっと音を立てて一度だけキス。程良く溶けたチョコをクラサメの咥内に移すと二人で舌を絡めつつそのチョコを撫ぜる。
甘いものは得意ではないと言っていた筈のクラサメも、その甘さが気に入ったのはエミナの舌を絡めて強ってチョコを啜り取る。
ほのかな甘さを互いの咥内で共有していたが、息苦しくなったエミナはずるりと舌を引き抜いた。
「ッ―――、はァッ。んっ」

「このチョコ、おいしいネ。ねぇ……本物も、食べてくれる？」
しっとりと濡れた瞳と、甘い声の合間にかかる吐息。

答えはYES。返答の代わりに、ちゅと瞼に口づけを落した。

「チョコレートの代わりに、ワインを用意してるの。後で飲もうね。」
「……朝からワインか。贅沢だな。」
「朝までするの？えっちぃ。」
何をどのように解釈したらそうなるのか――。
「その口、塞いでやろうか。」
唇で、塞いでやろうか――。
「お気のすむまでどーぞ。」

満面の笑みに矢張り、勝てそうもないとクラサメは額を重ねるとぷっくりと膨らんだエミナの唇を一舐めした。
何を思いついたか、一つ残ったシンクからのおっぱいちょこを片手に忍ばせて、寝室へと二人の影は消えて行った。

Happy Valentine's Day

2012/02/21