エースの災難ver.2(ナイエミ)
ナインの寝言が大きいことだって、部屋が汚いことだって、音楽の趣味が合わないことだって、100歩譲って許してきた。
アレシアとの食事を終えて部屋へと戻ってきたエースだったが、扉越しに聞こえる笑い声にドアノブに手をかけるのを止めた。
同室であるナインの声と、穏やかな話し声の主はエミナで有ることは早々に理解できた。
テレポストーンでも使って、また遊びに来たのだろうかとぼんやりと思いつつ片眉を上げた。
ナインとエースの部屋の真ん中にある共用リビングでいちゃつく二人。ここを通らなければ、自室へと戻ることは出来ないのだ。
「そろそろ帰るネ。」
談笑が終わって、立ち上がろうとするエミナの手首を掴んだナインは己の膝上へと誘った。まだ返してやらないと、行動で訴える。
「もう少し、いいだろ!まだエースは帰ってこねぇから。」
「だめだよ?鉢合わせしちゃったら大変だからね。」
困ったように笑って、ナインの頭を撫でて宥める。けれども、強い拒絶は出来ないないのでナインの内腿に手を置いた。
壁越しに聞こえてくる甘い会話に、エースは様々な寒くて仕方がなかった。
零度らしい夜風が非常に冷たく、凍ってしまいそうだ。身体の芯からの底冷えにぶるりと身を震わせた。
そんなこんな、考えているうちに二人の会話が止まった。
抱き合って、いちゃついているのだろうか。
セックスでも始められたら非常に困る。
否、別にどうでもいいけど、今日は行き場所がないからいちゃつきすぎて時間を忘れられては、同室の己の存在を忘れられては困るのだとエースは眉を寄せていた。
「だめっ、エースくん、帰ってくるからぁ……!」
「大丈夫だって、あいつなら、まだ帰ってこねぇし、もし、いたとしても気ィきかせてくれんだろ。」
聞こえてくる会話にエースはびくりと肩を揺らした。要するに、お楽しみ中だから、まだ帰ってくるなと、帰ってきていても邪魔だけはすんなよ、コラァ!ってそういう事ですか。
「……、そろそろ一人部屋にしてもらおうか。」
二人の関係がばれたらまずいので、アレシアの元に行くことも出来ずに部屋の外で読みかけの魔導書を読んで時間を潰すことにした。
ナインと共にいると、災難はまだまだ続きそうだと思った。
2011/12/31