待ち合わせ



「今日こそは、黒崎くんよりも先に!」
ワンピースを纏う織姫は、両手でガッツポーズを作って、やる気に満ちた表情をすると鏡の中の自分にそう言い聞かせた。

待ち合わせの時間は、午後一時。十分前では遅いからと、十五分前には待ち合わせ場所に着くように家を出た。

『井上、待ったか?』
『ううん、今来たところだよ!』

漫画やドラマでよくあるこのシーンを体感してみたかったのと、一護のことを考えながら待つ時間というのもじっくりと味わいたかった。

(流石に、今日は、あたしのが早いよね)
浮き足立ちながら、向かった先には橙が目立つ彼氏がそこにいた。

(黒崎くん、はやい……)
一護の顔を見ると尻尾振って無意識に笑顔になるのだが、少しだけ残念だった。

仕方ない。

次のデートこそは!


三日後

予定時間より三十分早くに家を出た。これなら大丈夫だろうと拳を作って向かった先にはーー。

「黒崎くん……」
またもや早すぎる一護がそこにいた。駆け寄るがしょんぼりした織姫を不思議そうに見つめる。

「どうした?」
「いつも早いね」
「あー、ちょっと本屋に用事があったんだよ」
「そう。お願いがあるんだけど」
このままでは、次のデートも一護の方が待ち合わせ場所に早く着いてしまう。一歩先行く一護に敵わない。そんな気がしたので、渋々、お願いする事にした。

「?」
「一回でいいから、遅刻してきてくれないかな」
「は?」
突然のお願いに、数回瞬きをして問いかける。
もう少し早く来てと言われるならまだしも、遅刻してくれとは何事だ。

「あれをやりたいの」
『井上ー。悪りィ、待ったか?』
『んーん、今来たところだよ!』

眉間に皺を寄せて一生懸命低い声をだす織姫に、自分はいつもこういう風に見られているのかと少し可笑しくなった。
似てないといえば似ていないけれど、雰囲気が似ている。織姫と同じように眉間に皺を寄せた。
一人芝居を見届けた後、数秒思案して頷く。

「井上、俺のモノマネ、びみょーに似てないぞ」
「えっ!もっと練習しとく!黒崎くんの納得いく黒崎くんを演じるから!」
「もっとキレのあるヤツ頼む。って、そうじゃなくて分かった。次は、遅刻してくる」
「良かったぁ。こーゆーのって恋人同士っぽいよね。前から憧れてたの」
「そうか?そんなんしなくてもじゅーぶん恋人同士だろ」
「!!!そうかな。目指せ、ばかっぷる!なんちゃって」
冗談交じりに笑う織姫に、一護はノリ良く返した。
「よし、目指すか、ばかっぷる!」
指を絡めて恋人繋ぎをすると、その手を正面にぐいっとあげて笑った。

織姫は、喜びと照れくさいのが混じった笑みを浮かべた。

織姫のお願いを断るわけにはいかない。

ナンパする不埒な輩を撃退するためにも、一時間前には待ち合わせ場所に待機していたが、一日くらいは遅れたフリをして、物陰からストーカーの如く織姫を見守ろうと思う一護だった。

END

2019.03.20


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