愛され度MAX
織姫の夢見は悪かった。
目を見開いて一護が横にいることに安堵して目を細めた。先程の夢を思い出すと、目頭が熱くなるのを感じる。じわりと込みあがる涙を抑えきれずにいた。
「やだ。ただの夢なのに」

「織姫?」
「黒崎くん、おはよ」
「なんで泣いてんだ?俺、何かしたか?」
つうっと頬に流れる涙に目を見開いて、指先で拭った。嫌なことがあったのか、昨日、傷つけることを言ってしまったのかと問いかけ、自分自身にも問いかけてみるが心当たりはない。
「違うっ!違う。嫌な夢見ちゃった」
「怖い夢でも見たのか」
気持ちを落ち着かせようと頭を撫でた。優しい温もりに、織姫も頬を緩める。

「怖いというか、うん。怖い夢。なんかね、黒崎くんが他の女の子と仲良くしてる夢。あたしのところに戻ってきてくれなくて、もー、ただの夢なのに泣いちゃってばかだよねぇ」
「それは、何つーか、うん。大丈夫だから。別に他の女と仲良くしようとは思ってないから、な」
夢の中の自分を殴ってやりたいと思いつつ、体を抱き寄せた。
「うん。わかってる!朝からしんみりしちゃうのは良くないね。あ!早く起きないと、一限目遅れちゃうよ」
織姫には、それだけで十分すぎるほどだった。すぐに穏やかな笑顔を浮かべるとベッドから起き上がって大きな伸びをしてもう大丈夫だということを伝えた。



「行ってきます」
「行ってらっしゃーい」
一護を送り出す織姫の笑顔に偽りはない。すっかり元気になっているようだ。
しかし、夢の話を聞いて大丈夫ではないのは一護の方だった。


一限目も、二限目も、お昼休みも、帰り道だって。

今までの自らの行いを反省していた。いつでもどこでも織姫と真剣に向き合ってきたつもりだが、そう思っているのは自分だけで、織姫に寂しい思いだとか、不安にさせていたのかもしれない。

バイトも始めて、以前より織姫に会う時間も減ったような気がする。考えても仕方ないので、思っていることをぶつけて、尚且つ、思っていることをぶつけてもらおうと織姫の元へ向かった。

腕を組んで顔をしかめて、如何にも考え事をしていますといいた気な表情でインターフォンを押す。今日は会う約束はしていない。その指先は、ほんの少しだけ震えていた。

「あれ?今日も来てくれたんだ!」
扉を開ける織姫は、意外な訪問者に目を丸めた後、嬉しそうに笑った。
「あのね、今ね……」
「あのさ、今日の夢の事だけど」
言葉を遮る一護の表情はいつになく真剣だった。それに気づくと織姫も唇を噛みしめる。
「うん、どうしたの?」
「俺が他の女と仲良くとか、そんなのしねえし。浮気とかしねえから。ホンットに。織姫だけだから、心配すんなーつーか。えーっとだから、不安になるなよ。それと何か不安になってることとか、寂しい事とかあれば言ってくれ。そういうの全部埋めたい」
「えっと、そんなに考えてくれてありがとう!黒崎くん、優しいし、ぎゅってしてくれるから不安になったことないよ。そんなに真剣に感がてくれてあたしはしあわせものだなぁ」
無意識に一護の腕が伸びて、織姫を包んでいた。
「俺も、同じ。織姫が嫌な夢を見ないようにもっとたくさん大切にするから」
「は、はい。あたしもいっぱい大事にするからっ!」


甘い雰囲気の中で、見つめ合ってキスの一つでもしようかと唇を寄せた一護だったが、見慣れた人物のにやけた表情を捕らえると眉を寄せた。


「おい、ルキア、どっから見てた」
玄関の向こうから、こっそり覗いていた小さな肩が大きく揺れる。
「……気づかれるとは、流石だな、一護。案ずるな。一部始終見ていた。何なら会話も一言一句間違えずに言えるぞ」
ばれたと一瞬慌てたルキアだったが、腕を組んで二人の前に現れて堂々とふんぞり返っていた。

「あ、そう、女子会してたの。見られちゃったね」
ルキアを庇う様に織姫は照れ笑いを浮かべた。
「構わずに、ちうの一つや二つして見せろ」
「しねえよ。見せねえよ。あー、いたのかよ。恥ずかしいセリフ聞かれた。つか、見んなよ、マジで」
恥ずかしい所を見られたくなかった。今後、がっつりからかわれる。大きなため息をついた。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を横目に、織姫の表情は柔らかかった。
足早に逃げるルキアを追いかける一護の手をそっと握った。


「今日は、黒崎くんといちゃいちゃしてる夢を見られるかな」
「……夢じゃなくて、リアルでいちゃいちゃしよっか」


指を握り返す一護から感じる温もりに、今朝の寂しい気持ちをすっかり忘れてしまっていた。
2018/11/26



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