おさわり禁止、でしたよね?(キング×サイス) 「はあ、なんであたしがいかなきゃなんねぇんだよ!とっとと寝ろ」 暇だから、遊びに来い。 そういったキングの言葉の上から声を乗せてくるサイスのそれは不機嫌そのものだった。 荒っぽい口調は、如何にもサイスらしいと思う。 次の言葉も聞いてくれずに、COMMを切られたキングは一瞥するとそれをベッドに投げ捨てて真新しいシーツに背を預けた。 長い付き合いだから、サイスがどうでるか等、理解するのは容易い。 多分、今頃、なんであたしがとかなんとか言いながらもこちらにくる準備をしてるであろう。 程よく温まった室内でうとうとしつつ、キングはそう思った。 暫くすると、鍵の開く音がして、足音がした。 見上げると、案の定、苛立ちを露わにするサイス。 「な、寝てんじゃねぇか。折角来てやったのに!」 部屋に、ふわりとシャンプーの香りが届くと、キングは起き上がって視線をサイスに定めた。 「ぎりぎり寝てない。来ると思った」 「…てん寝るんなら、帰る」 ふんっと鼻を鳴らしたサイスは、不服そうに唇を尖らせて背を向けた。ちらとキングを見遣って、出ていく準備をする。 背を向ける前に向けた視線の意味に気づいたキングは、サイスの細い手首を掴んだ。 「一緒に、寝るぞ」 耳を疑いたくなるような言葉に反論しようとしたが、サイスはキングのベッドに引きこまれて胸板に抱き寄せられていた。 「わっ、ば、ばかっ!寝るんなら、帰るってんだろ」 照れやら、何やらで自分よりも一層大きな腕の中で抵抗すべくこれでもかという程に動いた。 けれども、力強い男の腕の中では、どうすることも出来ずに力尽きたサイスは腕の中では大人しくしたものの、きつい睨みを向ける。 動じていないキングは、真顔で言う。 「いいから、傍にいろ。……風呂上りか」 「傍にいるだけだからな!!!変なことしやがったらぶっ飛ばす。ワリィかよ」 念入りに身体を清めた事に気づかれていそうで、サイスは気恥ずかしくなって小声になる。 「しない。抱きしめるだけだ。いいや、良い匂いだな」 「ぜってぇすんなよ?キングだって同じニオイじゃねぇか」 威嚇するように眉根を強く寄せて、釘をさすように言う。 匂いに反応されると、サイスの気恥ずかしさは強まる。腕から逃げ出したくて仕方が無かった。 「お前の匂いだから、いいんだろうな」 「変な事言うのもダメだ、ね、寝ろ!兎に角、明日に備えろ!」 キングの言葉は、サイスにとってはむず痒いものであった。 「寝たら帰るんだろ?」 「……、変な事しねぇって約束するなら帰らない」 勿論、素直になれないので素っ気なく呟いてもぞもぞと身体を動かすと背中を向けてシーツに顔を埋める。 「変な事って、例えばどういうことだ?」 「あ?わ、分かってんのにどうして聞くんだよ」 「お前と俺じゃ解釈が違うかもしれんからだ。確認の為だ」 耳元で低くて、少しだけ掠れた男の声が色っぽくてサイスはぞわぞわと背筋を震わせた。 「さ、触ったりな」 「どこを?」 「!色々、だ。分かるだろ」 「分からん」 サイスの困る顔が可愛らしくて、キングは意地悪を平然と、何食わぬ顔で続ける。 「……自分で考えろ!」 声を張り上げての必死の抵抗に、キングも頷いて肩口に顔を埋めた。 羞恥を感じる反面、サイスは、どこかで期待していた。 本音を言うと、キングにならば触れられる事を望んでいたから。 サイスは、待った。 言ってることと、心のうちは正反対で矛盾していると知りながら、兎に角待った。 そわそわしつつも、大人しく待った。 この雰囲気だったら、キングの手が己のカラダに触れる筈だと確信があったから。 が、優しく抱きしめられたままで時計の針だけが進む。 「……寝たのかよ」 意地悪も、おやすみの声も聞こえなくて寂しくなったサイスは遠慮がちに問いかける。 「まだ寝てない」 「起きてんなら、何か喋ろよ。……本当に、何もしてこないんだな」 サイスは、不意に出た自分の言葉に驚いて慌てて唇を覆う。 「触られたくないんだろ?」 触れられたくないなんてことが有る筈はない。 どうしてほしいのか分かっているくせに、そんな事を言う。 キングは、とてつもなく意地悪だ。きゅうっと唇を噛み締めてサイスは思った。 「お前は、優しくて、凄く意地悪だ」 「優しいかは、分からんが、意地が悪いことには同意する。愛想尽かしたか?」 震える声に、耐え切れなくてキングはサイスの手に触れて緩く絡める。 「愛想尽かした。けど、仕方ねぇから傍にはいてやる」 意地悪の後に、優しくされることに、サイスは弱い。 こうなってしまうと、意地を張れなくなってしまうのだ。 目いっぱい憎まれ口をたたいて、サイスはキングの方を向くと広い胸板に抱きついた。 「それは、ありがたい」 抱きしめるだけで、ベッドに共に入ることに出した条件を忠実に守るキングを不満げに見つめた。 「触んねぇのかよ」 「禁止されてるみたいだから、我慢してるんだ」 「……その禁止令解除してやる」 キングの背中に手を回して、ぎゅうっとシャツを掴んだ。 待てないから、早く触れと言いたげな視線に、キングは笑う。 キングのお望み通りに、拗ねるサイスと甘えるサイスを見られた。 意地悪ばかりしたお詫びにと、キングの指はサイスの良い所ばかりに触れた。 2013/02/11 |