C'est plus fort que moi! | ナノ




C'est plus fort que moi!


目的地が未だ見えない中で、むせ返るような湿気の樹林を歩いていた。
お気楽で楽しそうな少年少女と、気難しそうに眉を寄せているのは王女様と、その配下の将軍様。
長い耳で森の声を聴き、先を行くのは相棒のフラン。

二人きりになれていないせいか、触れ合っていないせいか、若いバルフレアは欲求不満気味だ。
前を歩くフランのぷりぷりのお尻が目に入って、はあっと深く悩ましげなため息をついた。
時折みんなを気にかけて、フランが振り返る。その度に、視線はバルフレアへと向かっていった。
フランを目が合うだけで、叶わぬ欲望がむくむくと起き上がる。

「クソッ、オレもまだまだガキだな。」
性欲をコントロールできないでいる。10代の盛りのついたお子様の様に。

悶々とした様子で眺めていると、突如フランの長い耳がピクリと動いた。

「みんな、疲れているでしょう。休憩しましょう。」
長い耳を揺らして振り返るフランよりも先に唇を動かしたのは、腕を組んだアーシェだった。
彼女も、絡み付く湿った空気と襲いくるモンスター達に嫌気がさしていたのだ。

「さんせー。つかれたー。パンネロ、向こう行ってみよう。変な植物があったぞ!」
「ほんと?いこいこ!」
めいっぱい背伸びして嬉しそうに大きな声を上げると、ヴァンはパンネロの手を取って少し離れた茂みにいってしまった。
「危ないから、あまり離れないで!」
叱責する王女さまの声は届いているのか、鼻歌交じりのヴァンの声が樹林に木霊した。


「お気楽なやつだ。」
木霊する声の先を一瞥して、眉を潜めて呟いた。

「バルフレア、大丈夫?」
前を歩いていたはずのフランが、バルフレアの隣に並ぶ。
絡みつくような視線をしっとりとした声音に、バルフレアの胸は高鳴る。

大丈夫なんかではない、今すぐにそのぷっくりと膨らむ小さな唇にむしゃぶりついて、激しく抱いてしまいたいくらい。
「平気さ。オレをだれだと思っている。」
人前でそんな事は言えずに渋々と頷いた。

触れ合えないことがこんなに辛いなんて、初めて知った。仲間が出来て、刺激的な旅の途中だが、物足りない上に、我慢の限界だ。

どこか大人の余裕を纏うフランを横目で見つめて、あしらう様に答えた。
「大人、なのね。私は平気じゃないわ。」
ふふっと笑う姿に、見透かされているのではないかと片眉を上げて訝しげな表情を向ける。
平静な表情を浮かべて、どの口が言っているのだろうかと。
何が平気ではないのだろうか。

「だから、少しだけでいいわ。助けてくれないかしら。」
何事かと眉を寄せる前に、フランの優しい手に掴まれてみんなから見えぬ茂みの中に入った。
普段と、逆転する体勢。
バルフレアの前には、フランがいる。

大樹に背を預けたバルフレアは、どこかせつなげなフランの瞳を捕える。目の前にいるヴィエラは欲情の鱗片に触れているようで。

この時を、待っていたようだ。

二人気になった途端、フランの頬が赤みを増していやらしい。
樹林のねっとりとしたミストを受け過ぎたせいなのか。
解明できない謎を置き捨てて、臨んだ唇に指を這わせた。

「欲情してるな。やらしーウサギ。」
にやりと口端を上げるバルフレアは、悪い男。自覚はあったが、いつでもどんな時でも、落ち着いたフランを手の上で動かせることがこの上なく幸せ。
欲求不満なのは、自分だけではなかったという喜びも有る。

「なんとでもいって。あなたに触れたいの。」
フランは、唇だけ、この樹林ではそれ以上は求めないから、とにかくバルフレアの唇だけが欲しかった。
彼の心地いい低い声が、長い耳を昇る。心もカラダもゾクゾクしてしまうのを否めない。


「いいね、そのセリフ。ゾクゾクする。」
じっとりとした鬱陶しかった筈の風も、興奮した身体には丁度いい。バルフレアの表情も徐々に雄へと変わって、フランの表情も緩やかに崩れていった。
「ねえ、キスだけでいいから……。ん、ぅ…!!」
頂戴と言う言葉はバルフレアの唇に掻き消されてしまった。
フランの下唇をバルフレアのそれが包んで、舌先でねっとりと舐って、ちゅっと音を立てたかと思えば生暖かい感触がフランの唇を侵す。
「はァ……、バル…。」
熱を孕んだ男の舌が咥内を弄る度に、フランの全身も粟立っていよいよ欲情も深まっていく。待ち望んだ舌を口を開けて招き入れた。

下肢がバルフレアを求めているのが分かる。

本当に、キスだけで十分だったのに。ねちっこく絡み付く樹林の雰囲気に当てられたかと思ったが、バルフレアの雄に引き寄せられていたようだ。

舐めて、弄んで、好きにして。


けれども、ここは。




「んんっ。もういいわ。十分よ。」

はあっと漏らした吐息の中に本音を隠して、差し出した舌を引っ込める。口端から垂れる互いの唾液を指先で拭って、言葉とは裏腹のもどかしい視線を向けた。
指先でバルフレアの唇を象って。

「ばーか。こんなキスしといて、そんな目で見つめられて、こんなんで終われるか。」
口端に垂れる唾液を舌で舐めあげて、向けた瞳はギラギラして欲情しきった若い雄の瞳。
誘われて、唇だけ繋がって、はい、お仕舞いですなんて納得いかない。

「私が欲情したら、手に負えないでしょ?」
「カラになっても、付き合ってやる。」

お互いたまっているのならば、話は早い。

ざわつく樹林を遠くで聞いて、若いヒュムとヴィエラは欲望に従った。




2011/11/29