Do you understand?(シンドバッド×紅玉)

王の間で玉座に座るシンドバッドと、それを見上げる紅玉。
会話なくとも、空気は張りつめていた。

「え?え、あ、ジュダルちゃんには、お話し相手になってもらっていただけですよ?」
昨晩、何故ジュダルは紅玉の部屋にいたのかという問いに、引き攣った笑顔を浮かべつつ、事実を伝えた。
紅玉の声が上擦って、笑顔が薄れているのは、シンドバッドの笑顔が張り付いていて、妙に怖かったからだ。
日々見る表情だが、全く笑っていない目と、責めるような声音に、紅玉はたじろいだ。


「ジュダルから聞いたが、俺のいない時に、よく二人で会っているというのは本当か?」
「は、はい。だって、ジュダルちゃんとは、昔からの馴染みですし」
口元を袖で隠しつつ、言えないようなことはしていないと紅玉はそろりと頷いた。
シンドバッドの表情がまた引き攣って、その笑顔は、紅玉にとってまるで知らないシンドバッドだった。

不穏な空気が漂う中、ジャーファルは眉を寄せて二人を一瞥した。

「本当に、話だけだったのか?」
立てていた肘を前へと持って行くシンドバッドは、声音低く、詰め寄る。
紅玉は、一歩後退した。

『ちょっと、痴話喧嘩ならよそで……』
いよいよ空気がおかしなことになっていると、ジャーファルは口を開いてそう続けようとした時だった。

その言葉は、なんとも紅玉の荒々しい声音と、覇気の上で掻き消されてしまった。
「!わ、私を疑っているのですか?ひ、酷い!どうして、どうして信じてくれないの!いつも、貴方だけと申し上げているのに。信じてくださらないなら、もういいわ!私、煌帝国へ帰ります」
顔を真っ赤にして、ぎゅうっと拳を握った紅玉は、声を張り上げ言い切ると背を向けて、夏黄文の袖を掴んだ。

そのけたたましさに、シンドバッドはおろか、ジャーファルも目を丸めて暫く黙った。

「……、話を……」
自分の前で大人しい紅玉の、その勢いに呑まれたシンドバッドは一呼吸おいて言った。

「シンドバッド様と、お話しすることは有りません。帰るわよ、夏黄文」
が、一蹴された。

「ああ、おいたわしや、我が姫君。七海の覇王。姫君は、毎夜毎夜、貴方だけを待っておりました。そのことだけは覚えていてください」
浮気を疑うような物言いに、だれよりも紅玉の気持ちを知っている夏黄文は主君を抑えることはしなかった。

急かす様に袖を引っ張られ、もっと言いたいことのあった夏黄文だったが、ジャーファルのこれ以上にない強烈な睨みに前には視線を逸らして頭を下げるだけに止めた。

「失礼いたします」
二人がいなくなって呆気にとられたのは、シンドバッドとジャーファル。

「…………、姫君に怒られたのは初めてなんだが」
「でしょうねー。シンが好き勝手やってきたのに、よくもまあ怒らずに付き合ってきましたよね」
しらーっとした視線を向けて、積み上げられた書類の山を見上げた。
「女性に怒られるのもなかなかいいな!」
愉しげに口角を上げるシンドバッドには些かの反省もみられないように感じたジャーファルは怪訝そうに眉を寄せた後、ため息をついた。
「はいはい、くだらないことを言ってると姫君が本当に帰ってしまいますよ。ああ、本当にジュダルと良い仲になってしまうかもしれません。彼女も年相応の若い男の方がいいと気付いてしまうかも!」
「それは、気に入らん。フラグへし折ってくる」
シンドバッドだって理解はしていた。くだらない大人気の無い嫉妬を恋人にぶつけているだけなのだと。
ジュダルに囁かれた言葉が気に入らなくて、感情のままに動いてしまった。
紅玉の返しに、己の行い反省しつつも、間違えの無い感情に気づいて、笑った。



「うわあああん、夏黄文!言ってしまったわ。どうしよう、シンドバッド様、きっとすごく怒ってらっしゃるわ!どうしよう」
ふるふると震えて、ベッドに上で夏黄文に泣きついていた。
頭に血が上って言ってしまった発言を取り消そうにも、リセットはきかない。
悲しかった、寂しかった、こんなに大好きなのに理解してもらえなかった。
あまつさえ、家族同様に思ってきたジュダルとの仲を疑われるなんて思わなかった。
抑えきれない感情を、シンドバッドにぶつけてしまうなんて。
どうしようもなく溢れるのは後悔と涙だけだった。

「いえ、たまにはガツンと言ってやらぬと届かない言葉だってありますから」
姫君は悪くないと付け加えて何度かその頭を撫でて慰めた。
「か、夏黄文……」
震える声で呟いて、存分と泣きつこうとした刹那、足音が近づいてきた。
紅玉には、誰のものだかすぐに分かって息を呑んだ。

「姫君?」
重く堅い扉の向こうから聞こえてきたシンドバッドの声には、紅玉はピクリと肩を揺らして夏黄文の袖口を握った。
迷う想いを、夏黄文に委ねた。

「姫君、誤解されたまま煌帝国へ戻りますか?それとも、誤解を解いて、煌帝国へ戻りますか?」
が、夏黄文は、答えへは自分で導けと急かす。
わざと、紅玉の気持ちを代弁しないような問いを投げた。
「…………」
紅玉は、問いかけには首を横に振って、夏黄文の手をぎゅうっと握って離すと扉の前へ立った。




「な、何の用でしょうか?帰る支度をしていましたの」
厚い壁を一枚隔てて、涙を溜めつつ上擦る声で精一杯の嘘を紡ぐ。
「すまない。姫君、貴女が俺を裏切ることは無いと知っていたがジュダル相手になるとつい、な。分かっているが、どうしても嫉妬してしまう」
どんな怒りをぶつけられるのかと思えば、シンドバッドからいち早い謝罪に困惑した。
「…………っ」
「許してくれますか?紅玉姫」
「は、い。私の方こそごめんなさい。シンドバッド様が悪いんですよぉ。私の心には、シンドバッド様だけなのに!」
つんとすることなど出来なくて零れるのは本音。視界を濁らせて小さな声で訴えた。
涙を拭っていると映るのは愛しいシンドバッド。
唇を噛み締めて、目の奥が熱くなるのを感じて涙があふれると同時に痛む目頭気を取られていたが、突然視界は真っ暗になった。

「ああ、俺が一番悪い。紅玉の事となると見境がなくなる。煌帝国へ帰るのはやめてくれ」
「っ、ふっく……か、帰りません。シンドバッド様の隣にまだいたいです。っく、だからですね、えっちのとき、あんなに意地悪なシンドバッド様、は、初めて怖かったです。いつも、たくさん、んく、ふ、舐めてくれて優しいのにぃ」
「ひ、姫君、ちょっとそういうことはここでは……」
焦るシンドバッドと、泣きじゃくるってダメ出しをする紅玉。
「こ、この前は痛かったですわぁ。た、だ入れるだけだったし」
夜の生活の愚痴もちょっぴりいれてわんわんと喚く声は、食客の廊下中に響いた。




情けないくらいに嫉妬深いという事と、失うことが怖いと、気付かされた。






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2013/02/06
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