きらい、嘘、もっとちょーだい。(キング×サイス) 言葉を声に出して、気持ちを報せることは苦手だ。 自分の気持ちを知ってほしいのに、声に出さずに、ましてや相手の気持ちを知りたいのに聞かずに気持ちを読み取るだなんて、そんな都合の良いことは有る筈がない。 恋仲になれば、言葉を交わさなくても通じ合えるというのは全くの嘘だと思う。 サイスは、眼前の恋人を睨みつけてそう思った。 「ばーか」 無機質なキングの部屋で、腕を組んでふてぶてしくソファーに座るサイスは、低く、そして、至極不機嫌そうに声を出す。 「それは、俺に言っているのか?」 突然過ぎる悪態と、冷たい睨みに気付いたキングは、視線だけを向けて問いかけた。 「はぁ?お前意外に誰がいるっつーんだよ。ばーか、ばーか。はげろ、ばーか!」 女心は、なんとやらとキングの脳裏に過った。しかし、この言葉が、今のこの現状にふさわしいのかは分からない。 眉を寄せて、ただただ見つめるだけに止めて、隣に座ると続きを待った。 よく分かっていないであろうキングの表情に、サイスの苛立ちは募るばかり。 こうやって不機嫌にしていると、気付けば唇を塞がれて、ほだされている。 本日も、そうなるシチュエーションなのだろうと、隣に感じる体温でそう思った。 それが、サイスの気に入らないことの一つでもあった。 ご機嫌を直す為のキスは、気に入らない。 言葉もなく、唇を重ねるだけの行為は、少し寂しい。 『好きだ』と声には出してくれないくせに、唇だけ奪って、余裕の表情を浮かべる。 戸惑うサイスを見て、キングは楽しそうに口角を上げる。戸惑うのは、いつだって自分だと思えるその光景に、サイスは納得がいかなかった。 くれるキスが気持ちがいいことにも。 もう一つは、もうずっと、0組の誰よりも長い時を過ごしているのに、彼は、キス以上はくれない。 物欲しそうに見つめても、さらりと交わされる。 乙女心を、踏みにじられたような気分になる。 そんな不満がたまって、子供の様に駄々をこねてみた。 本当は、悪態をつきたいわけでもなくて、ただその腕に収まりたいのに。 不満の次に、訪れたのは動揺。 「機嫌が悪いな、欲求不満か?」 切り替えされる声音と表情に、揶揄は映っておらず、そのことが余計にサイスの羞恥を仰いだ。 声に出していないのに、心内を見透かされたような発言にも腹が立つ。 花丸をつけてしまいたいくらいの、大正解。 悔しくて、頬は真っ赤に染まって、目尻にはうっすら涙が浮かぶ。 「!うっせえ。やっぱ、嫌いだ。むかつくヤローだ!」 そっぽを向くサイスの手を取ると、爪先を舐めて反応を窺う。 生温かく湿り気の帯びた舌に、サイスの背はぞくりと震える。 サイスの頬に影が出来るのは早かった。 「やっ!いやだ、ぜってえしねえ!っ、いや、っ、!!」 喚いたのは、ほんの数秒だった。咥内に入り込む柔らかい舌が心地よくて、ざらつく舌を求める様にサイスも舌を差し出した。 そろりと入ってきた肉厚の舌が、咥内を駆け巡るのが堪らなく気持ちがいい。 目を細めて、じんわりと訪れる快楽と、鼓膜へ入り込む水音を目を細めつつ、唇をキングを招くように開いた。 唇が離れたかと思うと、また押し付けられて唇を貪られる。 時間にすると、数分のその口づけは、とてつもなく長く感じた。 呼吸の乱れを整えて、ぎゅっと拳を作る。 続きをという視線を向けるのだが、どこに触れるわけでもなく、またあの、余裕ぶった表情を向けてキングは笑う。 目頭が熱くなって熱が全身を駆け巡る感覚にサイスは、キングの胸元を掴んだ。 「……!てめえは、いっつもこんだけだな!」 怒鳴りつけるつもりが、不意打ちで零れた言葉にサイス自身も目を丸めた。 「これ以上が、欲しいのか?」 互いの唾液で濡れたキングの唇が開いて、少ししてから低音が響いた。 「っ!!!そうだ、物足りねぇから、もっとくれったらどうすんだ」 悔しくて、恥ずかしくて、サイスはキングを下からじとっと睨みつけて開き直った。 こうなれば、ヤケだった。 嗤われるか、揶揄されるか、もうどちらでもいいと思った。 「望むままにしてやる」 言葉の通り、望むままに大きな腕に抱きしめられたサイスは素っ気なくもそのぬくもりに擦り寄った。 「きらいだ、ばか」 強張ったサイスの表情が、ふ、と緩む。 言葉とは裏腹に胸板に頬をつけると、唇を見つめて、キスを強請り、その続きを待った。 2012/12/21 |