Peach Puff(シン紅でちょいギャグちっく)

初めてできた友達の存在が、紅玉にとってはくすぐったくて、とても色鮮やかなものだった。
この友人、手先がとても器用で、紅玉が出来ないことを難なくやってのける。
プラスアルファで、恋の相談相手にもなってくれていた。

「シンドバッドさんの好みのタイプ。うーん、胸がぼーんっと出てて、腰がきゅっとしまってて、エロい人かな!」
真剣な紅玉の問いかけに、宴の席でのシンドバッドが侍らせている女性陣を思い出した。
明るく答えるアリババとは対照的に、身を乗り出して答えを待っていた紅玉だったが、しゅんっと頭を垂れていた。
正に、自分とは正反対の女性たち。一日やそこらで身体は成長するわけでは無い、色気だってそうだ。
「うう……っ、もう少し成長したら、胸もおっきくなって、色気が出てくるのかしらぁ」
小さな花をぷちぷちと千切りつつ、元気のない声で呟く。
「大丈夫だろ!紅玉も、将来はばーんって胸がでて、すんげー色気むんむんになって、シンドバッドさんもイチコロだって!」
身振り手振りで励ますアリババに、曇っていた紅玉の表情は晴れて、楽しげに声を鳴らして笑った。
未来なんて、分からないのだが、アリババの言葉には元気が出る。紅玉は楽しげに紡いで、笑顔を絶やさなかった。
「ふふっ、もしならなかったら、怒るわよぉ」
それは、蒼の広がる午後の事だった。




「いやー、アリババのやつ、やってくれるぜ」
八人将での会議の後、両腕を組んで椅子に深く腰掛けるシャルルカンの表情は得意げだった。

「何ですか。先輩、打ち負かされたんですか?」
低く突っ込むマスルールをシャルルカンはすかさず睨みつけて、こう続けた。
「いやいや、煌帝国のお姫さんいるだろ、あの子の事口説いてたんだよ。すんげえ親しげだったし、デキてんじゃねぇ?」

「あのお姫様は、王サマにお熱なんじゃなかった?」
恋愛事となると目を輝かせたピスティは、シンドバッドへ視線を向けて首を傾げた。

「紅玉姫は若いから、同じ年齢の彼に惹かれているのかもしれないわ。恋って突然だし」
人様の恋愛考察が苦手なヤムライハだったが、顎に手を当てて真剣な表情と声音で答える様に、シンドバッドはぐさりと何かが刺さったように感じた。
「あのお姫さんも心の底から笑ってるみてーだし。やぁっぱ、俺の教えが良かったんだろうなぁ」
王の色恋事情知らぬシャルルカンは口端を緩めて、楽しげだった。

確かに、アリババと共にいる時の紅玉は、自分に見せる顔とは違う、心の底からの笑顔を見せているように思えた。
どこかで分かっていても、第三者によって伝えられると、苦しいものが有る。

「もしかしなくても、乗り換えたって事っスか?」
マスルールの的を射た発言に、シンドバッドも追い詰められた。恋愛事など興味ないと言った青年からの一言は、衝撃が強い。
「かもなー。俺の弟子だし、そんくらいはやってくれねえと」

「さっきから黙っていれば、シャルルカン!一発殴らせろ!」
だんまりだったシンドバッドは口を開いて、嫉妬で燃える怒りの矛先をシャルルカンへ向けた。
声音とは違う、にっこりとした笑顔に皆、一斉に口を閉じた。
「一発と言わずに、五発くらいいいんじゃないですか?」
悪ノリしたマスルールとヤムライハは、シャルルカンを指差す。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ三人を横目で見つつ、思わぬ伏兵の出現にシンドバッドは大きなため息をついた。


そんな三人を見ていると、怒りも早々に治まってきた。


「頑張ってくださいね、シンドバッドお兄さん」
傍観していた政務官が愉しげにつぶやく。
「……ジャーファルが一番楽しんでいるだろ」
「あ、バレました?七海の覇王にも、簡単に解決できないことがあるということが愉しくて、愉しくて」
「他人事だと思って、皆、酷いな」
頬杖をついて好き勝手考察する八人将の面々を眺めた。

「愛されている証拠ですよ。精々、もがいて苦しんで、頑張ってください。振られたらヤケ酒にはお付き合いします」
「俺がフラれるとでも?」
聞きづてならないと表情を変えると、一呼吸置いた。
「さあ、人の心は分かりませんから。特に、女性は。あまり意地悪し過ぎない事ですよ」

紅玉へ煮え切らない態度を取るシンドバッドを知るジャーファルは、意味深に零した。


「よし、今夜は、デートに誘おう!」

嫉妬も落ち着いたことに思い出すのは、一回りしたの皇女。
アリババに向ける心底楽しそうな顔で笑う紅玉に会いたくなった。
その笑顔は、一番先に、自分に見せてほしかった。

今夜は、どんな顔で会ってくれるのかと、胸中はいつになく桃色が強かった。

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2012/10/12
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