すくいのて(シンドバッド×紅玉)


「おいで」
と、無条件に差し伸べられる手が、紅玉にとっては不思議で、くすぐったいけれども、とても愛おしいものだった。
男性の、武骨な手に救われたはシンドバッドで三度目。
一度目も、二度目も、魅入られたのは武人としての才能。

紅玉にとってそれは、喜びだった。
誰も何も言わずとも、母親が遊女だという事で宮廷で感じるのは好奇の視線と軽蔑。募るものは劣等感と寂しさ。
皇女でありながらも、本当はそうではないのだと、居場所は此処ではないのだと、強く言われているようだった。

王としての器を認められて、ジンを手に入れて、視界が広く明るくなっていった。
居場所も力も勝ち取って、何よりも自分に自信が持てた。
力がある限りは、煌帝国での居場所は十分にある。

ならば、打算を考えずに、求められたこの場所は?

こくりと頷いた紅玉は、招かれるままにシンドバッドの腕の中に潜り込んで胸板に頬ずり。温かくて、心地のいい鼓動にそっと目を閉じた。
この腕の中でないと、眠れない。


いつまで?

毎夜毎夜、疑問は膨らむばかりだったが、この腕の中で深く愛されて、聞くことが出来なかった。
今日こそはと、唇を奪われる前に口を開いた。

「シンドバッド様、私、あの……」
だが、どこか少し言い難い。
もじもじとなかなか続きを紡がない紅玉に、シンドバッドは小さく笑って静かに発言を待った。
艶やかな髪に指を絡めてゆっくりと撫でる。紅玉の声を、ただ待った。
開けっ放しの窓から流れ込む冷たい風に、眉を寄せたシンドバッドは紅玉の身が冷えぬようにと強く抱きしめた。


「っ!あの、私はいつまで、シンドバッド様のお傍にいていいのでしょうか?」
想いが通じ合った時からずっとずっと疑問の思っていることを、意を決して問いかける。
見上げたシンドバッドに、すかさずこう返された。

「姫君は、いつまで俺の傍にいてくれるんだ?」
耳元で囁かれる低い声に、紅玉の背はゾクッと震えてそれだけで蕩けてしまいそうだった。

そんな事は考えたことが無かった。叶う事ならば、ずっと傍にいたいと思っていたから。
「あなたのお傍にいられるなら、いつまででも。離れてしまうのは、私が私ではなくなるようでこわいです」
「ならば、紅玉が厭きるまで俺の傍にいてくれ。厭きられても離してはやれんかもな」
一層優しくて、穏やかな声音で告げられた。
続く言葉は、余裕が無くて、どこか子供のような表情だった。
その表情に口端を緩めていたが指先を絡められて、薬指に口づけられると紅玉の頬は更に赤く色づく。
「心も、全て、シンドバッド様だけのものですわ」


初めてだった。

武人としてではなく、女として愛されたのは。





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2012/09/24
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