わんわんぱにっく!(ナイン犬化ぱろ獣耳表現注意) カヅサを信じたのが、そもそもの間違いだった。エミナと仲良くなれる方法を教えてくれると甘い言葉に唆されて、ナインはカヅサの元へ行った。 一瞬の出来事だった。 何をどうして、こうなったのか考えるには頭が痛い。気付いた時には、ベッドの上。不安になったナインは、自身の身体を触る。 どうやら裸にされているわけでは無い。今のところ異常はなく、胸をなで下ろした。 拘束具をつけられているかと思えば、そういう訳でもなく手足は自由に動く。 視線だけをぐるりと移動させると、眼鏡を押し上げるイロモノ研究者と視線がかち合う。その男の口端は満足げに上がり、何か言いたげに口を開くも笑いを堪える様に押し黙って一歩、一歩と近づいてくる。 何とも言えない恐怖が、そこにはあって自己防衛と威嚇のために、ナインの耳がぴくぴくと動く。 「失敗、だね。ごめんね、こんな姿にしちゃって」 両腕を組んで、首を傾げてわざとらしいくらいに大きなため息をつく。 「ってぇぞ、コラァ!オイコラァ、てめぇ、俺に何しやがった!」 カヅサの声が流れるとそこでナインは、体の異常を感じた。先ずは頭。もぞもぞしてくすぐったいのだ。そして、お尻、こちらももぞもぞしてくすぐったい。 気を失っている隙に何か至らないことをされたことは間違いは無い。 何もしないわけがないと、ナインの背筋はぞっと震える。 威嚇するように、カヅサを睨んで、吠えた。 「ナニって、ナニしちゃったかな。新薬の研究のつもりなんだけど、どっかで間違ったみたいなんだよねぇ」 指先でナインの頭に生えた耳を爪弾いて、声音は残念そうなそぶりなのだが、見せる表情はどこか楽しげ。 「て、、ま、お、俺のカラダに、ナニしやがったー」 ナニと言われて、本能的にナインの声は上擦って顔面蒼白。 何をされたか聞きたくないような、聞きたいような心中複雑そうな表情をした。 「あー、はいはい。キミは声がおっきいねぇ。人選間違えたかな」 ナインに一から十を説明するのは面倒、説明してもうまくは飲み込んでくれないであろうことを予想したカヅサは、適当な返事を返して扉の先を見つめた。 「お詫びというか、言ってたお礼くらいはするよ」 ノック数回の後、カツンとヒールの音が響く。狭く無機質な室内に響く重い音と、柔らかい声にナインの耳も顔もそちらへと向かう。 「カヅサ、用事なんて珍しいネ……わあ、おっきいわんちゃんがいる」 ナインの耳がピンっと立って、尻尾は分かりやすいくらいに揺れた。 「これは、あれだ、俺の趣味じゃねぇぞ、コラァ!」 荒っぽい声音の割に、ナインの尻尾は大好きな人を前に振りきれんばかりに揺れていた。 「ふふっ、カヅサに変な薬飲まされちゃったんでしょ?可愛いお耳と尻尾とれるといいネ」 耳と尻尾が生えても驚く様子もなく、エミナは他人事のように小さく笑って、ぷるぷると震える犬耳を指先でつついて揶揄した。 「消えるまで少し時間がかかりそうだから、エミナ君が飼ってくれないかな?僕、乱暴な子はちょっと苦手だから」 ナインにとっては願ったり叶ったりの提案。 まさに、捨てられた犬気分でエミナを一瞥してふさふさの尻尾を大きく揺らした。 突然の言葉に、エミナも目を見開かせて視線を逸らしつつ考える。 「ごめんネ?おっきくてこわいわんちゃんは嫌だなぁ。ちっちゃくて大人しいわんちゃんがいいの」 エミナの口端に笑みが浮かぶ。ナインは、返答を期待したが、がくりと肩を落として尻尾を地に落とした。 「うーん。キミに預けるのが一番かと思ったけど。クラサメくんに引き取ってもらおうかな」 「クラサメくんに怒られるよ?」 「だよね。教え子をこんな風にしちゃったからね」 クラサメの怒れる顔を想像するだけで、カヅサの背は震える。 「ぜってー嫌だ。俺は怖くねぇよ、コラァ!」 その名が出るとナインはあからさまに嫌そうな顔をして、エミナに懇願するように吠えた。 「彼もそういってるし。彼と僕の為にも、ね?」 二人の寂しそうな、求めるような、母性本能をくすぐる様な視線を一気に受けて、エミナは戸惑った。 そして、諦めたようにため息を落した。 「……暴れたりしないカナ?」 「しねぇ。ぜってぇしねぇ。大人しくする!」 エミナに引き取ってもらうべく、ナインは必死になって頷いた。 「うーん。どうしよっかなぁ」 わんこになったとはいえ、年頃の男の子と一つ屋根の下というのは背徳的だった。 悩む。エミナは、珍しく難しい顔をしていた。 「エミナせんせぇ、俺のこと、飼えコラァ!」 これは、大きなチャンス。逃してなるものかと、ナインは一層声音を大きくした。 「……しょうがないかな。オトモダチの連帯責任で。ワタシがこの子の事面倒見るよ」 ナインは嬉しくて仕方が無いと言わんばかりに、耳を立てて尻尾を振った。 ナインとエミナの、ちょっぴり背徳的な生活が始まった。 2012/09/20 |